第158話 対峙
仙が解説してくれたオーガ発生の仕組みは驚愕的なものであったが、咲夜、竜次、守綱、あやめは、それを重要な知識として理解することができた。禍々しく地面に残るオーガ発生母体の文様は不気味に映るが、今は茶色に枯れ果て、力を完全に失っている。目に見える範囲での安全は確保できており、咲夜を総大将とする将兵たち400余名は、だだっ広い岩石質の巨大地下空間を更に先へと進んで行った。
天井から日の光が注ぐ地下空間の神秘性はそのままだが、奥へ進んで行くにつれ瘴気と妖気が濃くなり、鬼の巣の中心部へ恐らく近づきつつある。それはグロテクスに母体群で眠る巨体の奴らの姿が、将兵たちの目に入ってきたことでも推測できた。
「これは!? 生きてるな!? 間違いなく!」
目を背けたくなる眼前の光景を見て、思わず竜次は地下空間に響くほどの声を出した。先程確認した場所より、高密度でオーガ発生母体がそこかしこに点在しており、その蜘蛛の巣文様は全て青く光り、生きている。蜘蛛の巣文様母体中央の円では、時折ピクリと蠢くオーガたちが繭玉に包まれ、妖力を養分として蓄え、筋骨隆々な完全な巨体へと中で成長していた。人の感覚から見れば、恐ろしくおぞましい光景である。
「人の子と違い、オーガは最初から成長しきった体で生まれるわけでござるか。それにしても異様な光景じゃのう」
「あんたたちの見方だとそう感じるだろうね。私は人じゃないから、獣が子を宿しているのと同じようにしか見えないけどね。鬼とあんたたち人間は、感じ方からすると相対するものなんだろう」
様々な戦場を経験してきたであろう守綱ですら、そう気味悪がっているが、自分で言葉にしている通り、母体でうごめくオーガを見る仙の表情は、山にいる狸や猪を見かけた時とほとんど同じである。狐耳以外は人の形をし、竜次のような人の男を好きになることもある彼女だが、やはり九尾の狐として、人間には理解できない固有の感覚を持っているらしい。
生きている母体群に近づくと、何が起こるか分からない。咲夜以下の将兵たちは、蜘蛛の巣文様のオーガ発生母体を刺激しないよう、慎重に距離を取って更にもう少し奥へ歩みを進めていく。程なくして、母体群の密度が比較的小さい開けた空間にたどり着くと同時に、咲夜と竜次たちは凄まじい妖力を肌で感じ、戦闘態勢を取ると、その莫大な妖力の発生源に目線を向け、キッと睨みつけた!
美しくも非常に危険な妖しさを持つ蔑んだ目で、青い女鬼が竜次たちを威圧的に見返している!