第153話 完全な確証
「竜次、先程の話を私は『伝承』と呼んでいたな。その地域の伝承というものは、どういう人が知っていると思う?」
与一は竜次の成長を見ようと、正解をそのまま言うのではなく考えさせ、彼を答えまで導こうとしている。その意図を察した竜次は、腕を組み少しの間考えていたが、やがて何かをひらめき、ポンと手を打った後、こう答えた。
「その地域に土着している人でしょうね。仁王島の伝承ということなら、結の町で代々暮らしている町民ということになります。加えて長老のような人なら申し分ないはずです」
「そうだな、良い答えだ。私は正に今、お前が言った通りの人を結の町で探し当て、その土着の町人から話を聞き、仁王島について詳しく調べることが出来たのだ。土着民からは貴重な話が聞けたばかりだけでなく、結の砦の書庫に、仁王島に関する古い文献が残っているという情報を貰えた。竜次に伝承を語れるほど、私が仁王島に詳しくなれたのはそのためだ」
納得が行く答えにたどり着いた竜次は、頭の引っ掛かりが解消されスッキリしたらしく、大きくうなずいている。傍らでやり取りを聞いていた守綱も感心しきりであったが、彼には彼で疑問点がまだ一つ残っており、
「伝承を知った経緯についてはよく分かり申した。それで、竜次に続けて質問を重ねるようになりますが、与一殿、よろしいですかな?」
と、丁重に断りを入れて、与一に尋ね始めた。
「よいぞ、守綱。言ってみなさい」
「ありがたく存じます。拙者が気になったのは、山蝉、川蝉の兄弟仏師が、仁王島に住み始めた頃の時代についてです。咲夜様が結の砦で新情報と共に話しておられましたが、大昔の伝説にある鬼斬りの軍が、酒呑童子を筆頭とする6匹の強大な鬼を封じた後に、山蝉、川蝉は仁王像を島に作り置いたのですかな?」
守綱の問いはなかなかに鋭い所を突いており、与一は軽く唸りながら腕を組み考えている。少し経った後、頭の中で整合性のある正解が導かれたらしく、次のように答えた。
「砦の書庫で読んだ資料を思い出しておったが、酒呑童子たちを倒した後の時代で間違いない。そうなると……」
「全て辻褄が合ってきますね。金熊童子、青い女鬼、島にオーガが蔓延っていた時期、山蝉、川蝉が仁王像でオーガを封じたこと、その全てが」
仁王島の伝承と晴明の占いで得た新情報が、奇しくもここに来てぴったり組み合わさり、完全な確証に変化した。竜次たち500余名の将兵を乗せた船団は、近づくにつれ姿を徐々に大きくしてきた仁王島の岸壁に、もうすぐ接岸しようとしている。




