第150話 勇気
人というものは、仕草などにその人それぞれの性質を表す癖が出るものだが、今の腕を組んで細目をつむり考え込んでいる与一の姿が、正にそれである。しばらくそのまま微動だにしなかった後、与一はおもむろに目を見開き、咲夜と4人の将たちに、思い切りよくこう伝えた。
「倒すべき四天王の一匹と、国鎮めの銀杯の一つがあるのなら、今をおいて仁王島を制圧する機会はございませぬな。よくわかりました。そして決めました」
結の町のこと、その町民と将兵のこと、縁の国のこと、全ての慮るべき事情を頭の中でつなぎ合わせた結果、与一が導き出した決定である。これにより軍議に参加している将たちの志は、完全に一つになった。
「よし! 行きましょう仁王島へ! 与一さん!」
「ははは! 相変わらず真っ直ぐだな、竜次。真っ直ぐすぎるくらいだ。島を攻めるにしても将だけではいかん、兵あっての将だ。軍の編成を行わねばならぬ」
「そうか、そうでしたね。大事なことを飛ばしてました」
自分の若干の勇み足を竜次は少し恥じているようで、バツが悪そうに笑いながら頭をかいているが、それは彼の勇敢さと士気の高まりに由来したものであり、そんな竜次を誰も咎める者はいない。むしろ彼の勇気をこの場の誰しもが頼もしく思っており、与一が「恥じずともよい」と、笑いながら手で制している。
「あなた方も知っておられると思うが、御館様から500名の精兵を送って頂いておる。それらの精兵と我らが連動し、仁王島制圧作戦を決行する。兵たちの士気は高く、島へ向かう船団の整備も抜かり無い。一日あれば全ての準備が済むだろう」
一晩、結の町で眠り、英気を十分養った後、縁の国が誇る将兵たちは、鬼が巣食う仁王島を制圧するため、皆、船上の人になるということだ。これで軍議は十分深まり、手筈は整った。与一と咲夜たち5人の将は一旦解散し、与一は片付けなければいけない行政執務に戻り、咲夜と竜次、守綱、あやめ、仙は、結ケ原の合戦勝利後、数日世話になった人情深い店主がいる宿屋へ向かった。
初老になるまで、口では全てを言い表すことができない様々な事があったのだろう。白髪交じりの宿屋の主人は、ぐっすりよく眠り、戦前の良い緊張感で引き締まっている竜次と守綱の面魂を見て、
「御武運を」
その一言だけを言い、竜次たち5人の将を笑顔で送り出した。たった一言だけ……だが、それだけで何もかもが皆に伝わり、
(きっと、勝って帰る!)
静かなさざ波が寄せる結の港へ、彼ら彼女らは力強い歩様で進んで行く。