第149話 支えの拠点
結ケ原での大戦が終わってから、まだそれほどの日数は経っていない。結の町が戦で負った大きな傷は、まだ癒えていないはずだ。しかしながら町の大門から、人々の活気が賑やかな生活音と共に、広い町内のあちこちから混じり合い流れて来るのが分かる。仙の縮地で、結の町の喧騒漂う大門前に現れた竜次たち一行には、その活気が頼もしく感じられた。
(町の雰囲気が明るい。分からねえが、戦に勝てる気がするな)
初めから意気消沈であるよりは、ポジティブに士気が高まった状態で戦に臨んだ方が、良い結果が総じて得られるだろう。将兵を支える拠点として、今日の結の町は素晴らしい雰囲気を醸し出している。
与一と合流し仁王島制圧作戦の軍議を行うため、竜次たち一行は大門を潜り、町の東にある結の砦兼役所に向かった。石造りの守りが堅い砦前に立つ守衛兵は、咲夜を始めとする5人の将を目に認めると、気を引き締めて敬礼し、
「与一様から申し付かっております! どうぞお通り下さい!」
大きなよく通る声で伝えた後、咲夜たち5人を砦内に通した。結の町人たちには伏せられているのかもしれないが、守衛兵の対応を見ると、町の将兵には少なくとも何かしらの戦があることが、既に知らされているようだ。
堅牢な砦に入ると、黒羽織を着た役人の一人に案内され、竜次たち5人の将は、結ケ原の合戦に勝利した後、与一と今後の行動について話し合った殺風景な応接室に通された。今、与一は他の行政執務を行っており、彼が来るのを少し待たなければいけないようだ。有能な統治者であり、結の町の大黒柱である与一はいつも忙しく、黒羽織の役人がした話によると、合戦が終わって日が浅いのも、その忙しさを倍増させている要因らしい。
「やあ、皆さん待たせてしまいましたな。再会の親交を温めたいところだが、早速、軍議を始めねばなりませぬな」
「そうなりますね、与一。まず、私たちが仁王島について持っている新情報をあなたに教えましょう。是が非でも、今、島を制圧しなければなりません」
与一の温厚篤実な細目の顔を見て、竜次たちは皆、ある種の懐かしさを覚えたが、今回は結の町へ観光に来たわけではない。仁王島制圧作戦の軍議を早く進めるため、咲夜はこの戦をこちらから起こす核心理由とも言える、陰陽師晴明の占いで得た2つの新情報を与一に話した。ほとんど一言二言で咲夜は話し終えたが、それらの情報は与一の細い目を見開かせるのに十分で、
「なんと!? うーむ、そのような事実があったとは……」
驚愕の声を上げた後、見開いた目をいつものように細め、与一は腕を組み沈思している。