第146話 綺麗な彼女
「どちらも綺麗な方ね。うちで働いて欲しいくらいだわ。どうしたの竜次さん? 2人も彼女さんを連れて両手に花じゃない?」
若ママはいたずらっぽく微笑みながら、やんわりと竜次をいじってきた。クラブの女主人として様々な本質を知っている若ママに、容姿を褒められた咲夜と仙は、悪い気がするわけもなく素直に喜んでいる。ただ一人、非常に美しい女性3人に囲まれた形でそれぞれから軽く釘を差され、いきなりてんてこ舞いになった男がいるだけだ。
「え~っと……うん! アレだよ! 彼女たちは俺の友達で、縁とママの話をしたら店に凄く興味を持ったんだよ。それでママと会ってみたいと言うんで連れてきたんだ」
「友達? どういうことなんですか? 竜次さん?」
「そうだよ、私は彼女じゃないのかい? 竜次?」
うまく取り繕って説明したつもりだったが、竜次はまたボロを出してしまったらしい。強烈な突っ込みを咲夜と仙から受けた竜次は、完全にしどろもどろになっている。その様子を可笑しそうに見ていた若ママが、ようやく執り成しの助け舟を出し、竜次を救ってくれた。
「まあまあ、綺麗な彼女さんたちもそのくらいにしてあげて。2人とも私に興味を持ってくれたのね、嬉しいわ。ちょうどカウンターが3席空いてるから、座ってゆっくりしていってね。沢山お話しましょう」
入店した竜次、咲夜、仙を席に案内すると、若ママは従業員の女の子に指示を出し、カウンター内に戻りドリンクを作り始めた。その落ち着いた所作に、咲夜と仙は舌を巻いたように感心している。竜次に厳しい突っ込みを入れていたのも忘れ、若ママの優美で可憐な手さばきを、銀髪姫と九尾の女狐は見つめ続けていた。
「銀髪の可愛いあなたには、まだお酒は早いわね。クセが少ない柑橘ジュースをあげるわね。スッキリして飲みやすいわよ。これはお近づきの印だからサービスね。お代はいらないわ。これからよろしくね」
「わあ! ありがとうございます! 綺麗な切子細工のグラスですね。飲み物が美味しそうに見えて楽しいです」
咲夜が気づいたように、細長いグラスには精緻な切子細工が施されており、柑橘ジュースのオレンジ色がその細工模様に絡んでよく際立っていた。これも若ママのセンスだろう。客を飽きさせず楽しませる工夫が、グラス一つを取っても行き届いていることが分かる。
「青い帽子の綺麗なあなたは、お酒がよさそうね。これは竜次さんが好きな辛口の良いお酒。飲んでみる?」
「そうね、頂くわ。竜次がどんなのを飲んでるか興味があるからね」
艶やかな肌の両手で酌をしてくれる若ママの所作を、仙はその、ともすれば蠱惑的な切れ長の瞳でじっと見つめている。