第14話 咲夜の心
いい年のおっさん同士が仲良く歩いているのにはわけがある。竜次が都で住む家を案内するのと、いざというときのため、防具を武具屋で整えるためだ。そのうちの1つ目の件、家の案内はすでに終わっている。2部屋と台所、風呂もついた、町の片隅にある平屋で、近くに小川が流れており、季節ごとの自然も楽しめる、眺めのいい立地であった。
「どうだ。良いところであろう。竜次にうってつけではないか?」
「こりゃあいい! 良すぎるくらいだ! 本当にこんな家に住んでいいんですか?」
「もちろん。お主は足軽大将で、すでに姫を守った武功がある。それ相応の待遇を受けてよい」
部下となった竜次がいたく喜ぶので、守綱は多少ならず驚いたものであった。もともと部下思いの上役である守綱は、目を輝かせてこれからの住まいとなる平屋を、あちこち見て回っている竜次を見て、満足そうにうなずいていた。
そして今は、都内にある武具屋へ向かって歩いている。酒の酔いは2人とも抜けているようだが、もう日が落ちかけている。武具屋は夜も開いているとはいえ、なるべく用を早く済ませようと、竜次と守綱は歩みを速めた。
竜次と守綱が都を歩いているその頃、咲夜は薄く残る西日に映える、庭のツツジを眺めつつ、今までのことを考えていた。宮殿の庭の一部を彼女は見ているわけだが、そこに広がりを持つ、赤や白、ピンクの花は、咲夜の心を落ち着かせ、思考を整理する手助けをしてくれている。
(たった2日間のことだったけど、色々あったわ。竜次さんと出会えて本当によかった)
思えばアカツキノタイラに戻り、竜次と分かれたのは初めてである。いっとき離れただけなのに、咲夜はツツジを眺めながら、つい竜次の顔を思い浮かべてしまっているようだ。命の恩人だからというばかりではなく、彼の明るい笑顔と竹を割ったようなさっぱりとした性質に、咲夜は惹かれているのだ。そういう感情が自分の中で強くなってきているのを、彼女自身も心の内で否定しなかった。
「竜次か、いい男ではないか。咲夜よ、お前は男を見る目がある」
「!? 父上!? いえ、私はそのような……」
顔を赤らめて恥じらう可愛い愛娘の様子に、いつの間にか傍にいた昌幸は、「はっはっはっ!」と声を上げ笑っている。その後ろで2人を見ている桔梗も、おかしそうに口を抑えていた。
「竜次さんが好きなのでしょう、咲夜。顔に書いてありますよ」
「もう! 母上まで! でも確かに……私は竜次さんが好きなのかもしれません」
自分の気持ちを両親に対し、正直に言葉にした咲夜は、どこか心のつっかえが取れ、とても楽になった気がした。すっきりと良い顔になった愛娘を見て、平昌幸、桔梗の夫妻は、ゆっくり顔を見合わせ、何かを示し合わせたようだ。