第136話 並んだ芙蓉
「水の属性を持つ精神球を壊すには、地の法力を使えばいいんじゃないのかい?」
考え続け手が止まっている咲夜の様子が気になったのか、仙が傍に歩み寄り軽いアドバイスを送った。それでも咲夜は最後の試練に取り掛かることができず、何やら迷っている。
「私は地の法術を使うのが苦手なんです。地属性の法力を高めて放とうとしても、うまくいかないと思います。水の精神球を壊せる見込みがないのに法力を使い消耗したら、ますます破壊が難しくなりますし……」
「咲夜ちゃんらしくない弱気だねえ。だけどそういうわけだったのかい、分かったよ」
仙は白い肌の右手で咲夜の右手をそっと握った。美しい肌の手が合わさっている様子は、芙蓉が並んで咲いたように艷やかであったが、手を握られた咲夜は仙の意図がつかめず、可愛らしい三日月目で小首を傾げ、怪訝な表情を見せている。
「地の法術が苦手なら、私が法力を高められるきっかけを送ってあげるよ。水の精神球に向けて、手をかざしてみな。きっとうまくいく」
「あっ……はい! 分かりました!」
武道などで師範が手を添え、弟子の力が引き出るように補助をする指導の方法がある。言うなれば、仙はそれをやろうとしているのだ。姉のように優しい九尾の女狐の介添えを、何よりも心強く感じた咲夜は迷いが吹っ切れ、両手を水の精神球に向け、地の法力を高め始めた! 法力の集中が始まると同時に、仙の右手から大地が持つ力の温かさが送られてくる。咲夜はそれをきっかけに精神を統一し、潜在する地の法力を自身の極限まで高めた!
「岩嵐!!!」
咲夜が両手を向けた空間に無数の大きな岩つぶてが現れ、水の精神球に全てが飛燕を抜く速度で飛んでいく! 無数の岩つぶてからの激しい衝撃を受けた水の精神球は、地属性の大打撃を受け粉々に破壊され消滅した!
「できた! よかった……ありがとうございます! 仙さん!」
「よくやったねえ、咲夜ちゃん! 私はきっかけを作っただけで、ほとんど何もしてないよ。咲夜ちゃんがそれだけの力を持ってたのさ」
厳しい修行を成し遂げた咲夜は仙に満面の笑みを見せると、その場にペタっとへたり込んでしまった。無理もない、心身の疲労が限界だったのだろう。その持てる限りの能力を使った努力を晴明は認め、銀髪姫に音もなく歩み寄る。
「よく精進なさった。この試練は、咲夜姫、あなたが4つの属性の法力を一定以上の強さで使えるか、試すためのものであったのだ」
晴明の説明に咲夜は無言で深くうなずいている。彼女は途中で課された試練の本質に気づき、それを意識して実践していたのだ。