第135話 菩提樹
初秋と夏が入り混じった日差しは、まだまだ暑い。咲夜が茶を飲み、休息を取っていた間に日が高くなっていたようで、もう少しで昼に差し掛かるだろう。修行を急ぐ必要はそれほどないが、月が出る頃までには終わらせたいところだ。
「炎!!!」
法力が回復した咲夜は、次に風の精神球の前に立つと、炎の法術を放ち破壊を試みた! 休息前に地の精神球を壊したが、咲夜はその経験でコツをつかんだらしく、うまく自身が持つ最大限の法力を制御しつつ炎を使い、2つ目の精神球も見事に破壊した! 法術の使用後、咲夜は幾らか消耗したようだが、先程より余力が残っている。
「氷牙!!!」
風の精神球を壊した咲夜は余勢を駆り、続けて火の精神球の破壊を試みた! 大きな氷の牙が高速で火の球体に飛びかかり、鋭く冷たい大口で、赤く浮かぶ精神球を噛み砕く! 咲夜の法力と意思により生じた一種の式神のような氷牙は、3つ目の精神球を粉々に砕いた! 残るは水の精神球の破壊だけだが、咲夜は疲労の色が濃く、再び休息を取らなければならない。
「クタクタだろう、咲夜ちゃん。あっちに行って休むとしようかね」
「……ありがとうございます、仙さん。体がいうことを聞かなくなり始めていたので……」
法力のほとんどを使い果たし、疲れ果て肩で息をしている咲夜に、仙は姉のように寄り添うと、広い原っぱの中に立つ大きな菩提樹の木陰まで一緒に歩いた。菩提樹の下では晴明が敷物と弁当を広げて待っており、
「よく頑張っておられる。次が最後の精神球になるな。そう急がずともよい。これを食べて休み、それからまた試練に取り掛かりなさい」
と、優しく咲夜を迎えた。既に昼を回っており、木漏れ日がまぶしい。晴明が言う通り、昼食をよく食べ再び回復した後、修行の仕上げに取り掛かった方がよいだろう。咲夜をいたわるように涼しい木陰を与える菩提樹も、そう思いながら見守っているようだ。気のせいかもしれないが、おおらかに広がるその枝葉を見上げた咲夜には、そう心の内に感じ取られた。
弁当には、焼いて塩や香辛料で味をつけたイノシシ肉、日陰菜ときのこの炒めもの、甘辛い田作り、白飯が詰められており、咲夜、晴明、仙の3人は、ゆっくりと味わって食べた。和やかな昼食後、菩提樹の木陰で涼風にあたりながら十分休息を取った咲夜は、すくっと立ち上がり、最後の試練である揺らぎ浮かぶ水の精神球の前まで歩いて行った。
この青色の球体1つを壊せば、晴明が課した試練は終わりなのだが、咲夜はある問題を抱えており、どう破壊したものか沈思していた。




