第134話 姉のような
「咲夜姫、やっていることは間違っていない。だが、なぜ地の精神球が壊れなかったか分かるかね?」
咲夜が試練に取り組む様子を静かに見守っていた晴明が、ここでようやく口を開き、アドバイスを送り始めた。まずは咲夜に考えさせようと、問いかけている。
「それは、使った力が弱かった……のではないでしょうか? 例えば、固く締められた瓶の蓋があるとします。手を使い、ひねって開けようとした時、開く方向に手を回していたとしても、その力が弱ければ蓋は開きません」
「そうだな、よく分かっておられる。方向が間違っていないとするならば、より強い力で試すしかないな」
晴明のアドバイスを聞き終えた咲夜は、彼女に課された試練の意味する所を全て理解できたようで、迷いのない顔に変わった。もはや、咲夜の行動に戸惑いはなく、再び深い傷がついた地の精神球の前に立つと、先程より更に深く集中し、
「風刃!!!」
咲夜の持つ最大限の法力で、風の刃を放った! 大きく鋭いそれは、空気を切り裂く高速で飛んで行き、見事に揺らぎ浮かんでいた地の精神球を破壊した!
「はあはあ……。できました! 地の精神球を壊せました!」
「うん、よくやったね、咲夜ちゃん。それだけ法力を使ったら疲れちゃったんじゃないかい? まだ今は朝だからね、時間はたっぷりある。一服して次に取り掛かったらいいよ」
仙は、法力を消耗し呼吸を乱している咲夜に近づき、いたわるようにその頭を撫でた。仙は咲夜にとって恋敵である。しかしながら、自分に対して姉のような慈しみを見せる仙のことは、全く嫌いになれない咲夜であった。
縁の国がそうなのか、アカツキノタイラの世界自体がそうなのか、今のところ詳しくは分からぬが、超速子エネルギーを利用した道具が少ないといえども、冷温関連の優れた発明品は多いらしい。咲夜が法力の回復のため休憩を取っている時、晴明が金属製の日本で言うなれば魔法瓶のような物を出し、丁度よい温かさの茶を振る舞った。
この世界の魔法瓶はボタンが2つ付いており、それらのボタンを押してモードを切り替えることで、魔法瓶内を温めたり冷やしたり温度調節ができる。小型のバッテリーである送り石が魔法瓶の下部に付けられていて、そこからの超速子エネルギーを使い、ある程度の範囲で冷温調節ができる仕組みだ。
「おいしいお茶ですね。生き返りました」
咲夜たちにとっては、ごく普通の魔法瓶であり、のんびりと茶を飲みつつ回復しているのだが、ここに日本から来た異世界人である竜次がいれば、まじまじと見て物珍しがっていたことだろう。