第132話 暗から明へ
激闘をくぐり抜け、九死に一生を得た竜次とあやめは、呼吸を十分整えると『浮き明かり』を使い、辺りを改めて見回してみた。先程の戦いが嘘のような静寂である。その強さを化け物と形容するしかなかった謎の武将の姿は、フロアのどこにもない。この空間内で存在感を示しているものは、中央で台座の上に置かれた黒曜石の玉一つだけだ。
「あのまま戦い続けてたら、絶対負けていた……とんでもねえやつだったな」
「ええ、何だったんでしょうあの武将は。自在に振っていた刀は、どう見てもドウジギリでしたが」
敵が強すぎ、戦闘中は考える暇がなかったのだが、ドウジギリというキーワードが頭の中を巡ると、竜次とあやめはほぼ同じ瞬間に何かをひらめいた。確信に近いひらめきなのだが、2人とも自分たちが思い当たった推測に信用が持てないでいる。
「あやめさん。いや、まさかな……だが、あれはドウジギリだった」
「ドウジギリでした。間違いなく2人で確認しました。どちらにしろ、これ以上考えを巡らせても仕方無さそうですね」
冷静に語るあやめを見て、竜次は日陰山の試練を成し遂げたことを悟り、台座上で静かに佇んでいる2つ目の黒曜石の玉を取ると、腰に着けた無限の青袋に仕舞った。もうここで長居をする必要はない。竜次とあやめは、危険が無くなった自然洞窟から脱出し、晴明の庵へ歩みを速めて帰って行った。
竜次とあやめが日陰山の試練に挑んでいたその頃。
「日陰の村って広いんですね。こんな大きな原っぱがあるなんて」
咲夜は自身が成し遂げねばならぬ試練のため、村外れにある広い平原に来ていた。これから何が待ち受けるのか分からぬというのに、咲夜はあまり緊張を感じていないようだが、長閑なだだっ広い原っぱが珍しく、純粋な感慨が自然と出ただけなのだろう。
「よい所であろう。私は気晴らしでここに来るのが好きでね。何をするともなく、平原の地平を眺めて過ごすこともある」
「そういうもの好きはあんたらしいねえ。だけど、確かにいいところだね。一日中でも飽きずに居られそうだよ」
遠くを眺めつつ、初秋に入りかけた残暑が残る広い原っぱで悠然と立っているのは、晴明と仙の実力者2人である。この2人がいないと咲夜は試練を行えない。そのために陰陽師と九尾の狐の2人が同行しているのだが、今のところ3人でピクニックにでも来たのかと思うほど、和やかな雰囲気である。
咲夜には晴明が直々に稽古をつけるのだが、穏やかに低草が青々と風になびくこの平原で、どのような試練を始めるのだろうか。