第129話 プレッシャー
罠など仕掛けがないことを確認した後、あやめと竜次は、身を低くかがめてトンネル状の通路をくぐった。その先には、1つ目の黒曜石の玉があったフロアより大きな空間が広がっており、いかにも強敵が潜んでいそうな雰囲気も漂っている。
「これは広いな。本当に自然にできた空間なんだろうか?」
「岩の内壁を見る限り、そうでしょうね。このフロアに2つ目の黒曜石の玉があるとすれば、晴明さんが言っていた『所定の敵』が確実にいるのでしょう」
あやめの言葉は理路整然としている。前のフロアでオーガの群れが出現したことを考えると、この広いフロアでも黒曜石の玉を発見した場合、十分な注意が必要になる。玉の周囲に仕掛けがあり、それに連動して難敵が出現しないとも限らない。
竜次とあやめはフロアの左側から探索を始めた。天井が高いため、『浮き明かり』を高く漂わせ、黒曜石の玉を探していると、フロアのちょうど中央部に2つ目の玉を発見した。やはり台座の上にそれは置かれている。前のフロアと同様、この部分には恐らく人の手が入っているのだろう。
「案外あっさり見つかったな。1つ目の玉と違って、明かりで照らしても反応がないな」
「周りに仕掛けらしいものも無さそうです。近づいてみますか?」
「そうするしかないよな。てっきり『所定の敵』ってやつが出てくると思っていたんだが……」
若干の油断と共に、竜次は2、3歩、何も反応がない黒曜石の玉に近づいた。次の瞬間!
(!!!??)
竜次は信じられないものが前方にすうっと現れたのを見て、背筋が凍りかけた。それは、古めかしい甲冑を身に付け、刀を腰に帯びた謎の武将である。生気が肌に感じられず、怨念か亡霊かと思われるが、竜次の背筋が凍りかけたのは、それが理由ではない。
(何なんだこいつの威圧感は!? 金熊童子の比じゃねえぞ!?)
あやめも竜次と同様なことを考え、謎の武将が放つ多大なプレッシャーに押されつつも、コギツネマルを構え、臨戦態勢に入っている。ハードルが上がりすぎているが、これが倒すべき所定の難敵で間違いないだろう。戦いは避けられない。
「俺は源竜次! お前は何者だ!?」
戦うしか選択肢がないのだが、竜次は尋常でないプレッシャーを放つ謎の武将にコンタクトを試みた。しかし、古めかしい甲冑を着た謎の武将は何も答えない。
(…………)
ただ、源竜次という名を聞いた時、彼は口元でニヤリと笑い、腰に帯びていた刀をスラリと抜いた。竜次とあやめに向けたその切っ先は、見覚えがあるどころではない。
「ドウジギリ?」
見紛えかと思いたかったが、見紛えようがない。