第126話 直感アラーム
後を漂いついてくる『浮き明かり』を頼りに洞窟内を見回してみると、この空洞は刀を思い切り振り回して戦うのに、支障がないほどの広がりがあるようだ。洞窟の横穴は奥深くまで続いているが勾配は少なく、ほぼ平坦と言ってよい。晴明は竜次とあやめに、この自然洞窟の構造を詳しく教えていなかったが、恐らく、上や下の階層に進むポイントは探してもなく、今いる階層だけで構成されているのだろう。
「広さがあって動きやすい洞窟なんだが、ちょっと不思議なほど広いな。ここのどこかに黒曜石の玉ってのがあるんだろうな」
竜次は、広い空間を先に進むあやめに追いつき、辺りの内壁面をぐるりともう一度見回しながら話しかけた。晴明の話では、所定の敵がどこかにいるはずなのだが、遭遇する気配を感じない。
「探りながら歩いていますが、黒曜石の玉も倒さないといけない敵も見当たりませんね。どこに潜んでいるのでしょう?」
「そうだなあ、左側から中央の岩壁までは見たんだよな。とすると……」
あやめと竜次は気配を消しながら広いフロアの右側に移動し、手分けして探索を行った。程なくして、竜次が自然洞窟に若干似つかわしくない、人工的な台座に載せられた黒曜石の玉を発見し、あやめを小声と手招きで呼び寄せた。
「あやめさん、あれだろ? 見つけたぜ」
「間違いなさそうですね。でも、いるはずの敵がいませんね」
「そうだよなあ。晴明さんが言ってたことと違うよな?」
竜次とあやめは少しの間、『浮き明かり』に照らされ、黒く静かに光る玉を見つめながら考えていたが、あやめが一歩前に進み出ると、
「私が詳しく探ってみます。何かが起こったとしても、私の方が対処し易いはずです」
いつもの冷静さで、そう提案した。その言葉を受け、忍び特有の鋭敏な感覚を持つあやめに、竜次は全てを任せ、自身はあやめをフォローするためドウジギリの柄にある黒ボタンを押し、甲種甲冑装備を身に着け臨戦態勢の構えを取っている。
あやめは台座にある黒曜石の玉までもう少しだけ近づいてみたが、まだ何かが起こる気配がない。しかし、若年ながら幾多の危地を切り抜けて来たあやめの直感が、
(これ以上は近づかない方がいい)
そうアラームを鳴らしている。あやめは自分を幾度となく助けてくれたこの直感を信じ、近づくのを止め、その代わりに無限の青袋から苦無を一本取り出すと、正確無比な狙いで、黒曜石の玉のすぐ近くに投げ刺した!
次の瞬間、黒曜石の玉からまばゆい光が発せられ、その光が収まると、フロア内に5匹のオーガが現れた! いずれも鈍い無表情な目で、こちらの様子を窺っている。