第122話 助け船
占いの結果について一通り話し終えた晴明は、竜次たち一行に手伝わせ、占い道具を物置へ片付け始めた。竜次は、晴明に言いたいことがまだあったようだが、その言葉を飲み込み、努めて感情の乱れを抑え、それなりの重さがある姿見の鏡を運んでいる。美しい鏡面を見ると、そこに先程まで写っていた青い女鬼の強大な妖力が思い出され、竜次の心中に複雑な不安と不甲斐なさが生じかけた。
(勝てないなら、俺はどうすればいい?)
自分への腹立たしさというより、焦りである。これから何をやっていけばいいか分からなくなると、人というものは途方に暮れるものだ。今現在の竜次には、進むべき道を照らす光が欲しいのだが、彼の迷いを全て見通しているのか、陰陽師晴明は、静かに竜次の深く悩む様子を見守っていた。
「よく手伝ってくれた。これを飲んで落ち着くとよい」
占い道具を片付け終えた竜次たち一行に、晴明はまた冷茶を出してくれた。それぞれの湯呑みには、先程の半分ほど冷茶が汲まれている。ゆっくり飲み、気を静めるには丁度よい量だろう。
「晴明さん、あなたが送ってくれた書には、国鎮めの銀杯の在り処を占う他に、所用があると書いてありました。それはなんですか?」
少し湯呑みの冷茶に手をつけた後、あやめが聞きたいことを直接的に切り出している。晴明はそれを聞くとうなずき、
(よかろう。話すとするか)
何かのタイミングを測っていたのか、湯呑みを置いてこちらを真剣な目で見る竜次たち一行に体を向け、口を開き答え始めた。
「一言でいえば、あなた方の強さに関連したことだよ。それを詳しく説明する前に、先程の言葉を訂正しよう。竜次殿、私はあなたに『あの青い女鬼には今勝てぬ』と言ったな?」
「はい、間違いなくそう聞きました」
「うむ。正確に言えば私の言葉は間違いだ。あなた方の仲間には、九尾の狐の仙がいる。仙と力を合わせて戦えば、勝つには勝つだろう」
晴明の言葉はまだ続きそうだが、苦笑を浮かべた仙が間に入り、青衣を着た陰陽師の話を一旦止めさせた。
「えらく持って回った言い方するねえ、晴明? 何が言いたいんだい?」
「勝ちは拾えるが、仙以外の誰が死ぬか分からぬということだ。伝説にある2匹目の鬼を倒したところで、まだ4匹残っている。ここで死んでしまってはどうしようもなかろう」
多大な犠牲を伴えば、青い女鬼にもかろうじて勝てる。その戦力分析は、仙も納得できる。
「じゃあどうするんだい? 私も竜次たちを死なせたくはないからね」
大霊獣の意外な言葉を聞き、晴明は少しだけ微笑みを見せた。そのすぐ後、この陰陽師が続けた言葉は、竜次たちにとって、これ以上ない大きな助け船となる。




