第120話 解せぬ驚愕
「それでは占うとするかな。皆を見るにちょうど頃合いのようだ」
晴明は珍しく少し間延びをした声で答えると立ち上がり、占い道具が仕舞ってある物置へ音もなく歩いて行った。この陰陽師が言う『頃合い』に、深い意味があるのかどうかは分からないが、各種の占い道具は、物置小屋から出して使いやすい位置にあらかじめ動かされており、占いの準備にさほど時間はかからなかった。まるで因果律による、この『頃合い』を待ち構えていたようにさえ思える。
風水に従った姿見の鏡、赤水晶の玉の配置が完璧に終わると、晴明は何も言わず、咲夜や竜次たちの心の準備にも構うことなく、五芒星の印をいきなり結び、鮮やかな青色の法力を赤水晶の玉に向けて放った! 青色の法力の光は、赤水晶の玉で赤の法力の光に変換され、姿見の鏡に強大な妖力を持つ、青い肌の美しい鬼を写し出す!
「これは!? 女の鬼か!?」
「そのようだな。女鬼は私もあまり見たことがない。珍しいが、そんなことよりこの青肌の鬼は強い」
姿見に写った青い女鬼と竜次たちを見比べつつ、晴明は何かを続けて言いかけたが、
(まあ、後にするか)
思い直し、口をつぐんだ。竜次たちは晴明の微妙なその変化に気づくことなく、驚愕のあまり、皆、絶句して、美しくも強大な妖力をその姿から漂わす女鬼を、見つめ続けている。
「法力の加減を少々間違えて、千里眼による景色の切り替わりが早すぎたが、この女鬼はどこかの島にいるようだな。その島のどこかで国鎮めの銀杯を奪われぬよう守っているのだろう」
「島!? なら間違いないわ! 仁王島ね!」
ここまでの事情をまだ知らない晴明は、なぜ咲夜が確信的に、強大なこの女鬼は仁王島にいると言ったのか分かりかね、驚きで震えんばかりの銀髪姫に尋ねてみた。
「ところで先程から、何をそんなに驚いているのか? 仁王島の名がいち早く出てきたのは何故か?」
「私たちは、アカツキノタイラにその昔いた、凶悪な6匹の鬼の伝説を知っているんです」
咲夜の答えは晴明にとって意外なものであり、ほんの少しだけ驚いたのか、涼やかな目の色をわずかに変えた。その微妙な陰陽師の変化を感じ取れたのか、咲夜は特徴的な三日月目で、可愛らしくも真剣な眼差しを晴明の顔に向けている。そして、傍で様子を見ていたあやめと共に、宮殿の書庫で調べた、『縁の国黎明期と6匹の鬼の伝説』について、晴明に詳しく話し始めた。
咲夜とあやめが語る内容は、実際のところ、どれ程の歳月を生きてきたのか見当がつかない晴明ですら、知らぬところが多く、彼は非常な興味を示して聞き続けた。