第118話 旧友との再会
日陰菜の畑が広がる村の風景に、一行の誰しもがちょっとした懐かしさを感じている。そうした一行の中でも、仙にとっては久しぶりに見る日陰の村の田舎道であり、悠久の時を生きる九尾の狐とはいえ、懐古の感慨が深いようだ。
「連理の都の賑やかさもいいけど、こういう長閑さもやっぱり悪くないね」
「俺も日陰の村は好きだよ。日陰山のでっかい陰が村にかかって、真夏の朝でも涼しいもんだな。ところで仙さんは、昔よくこの村に来てたのかい?」
人間と大霊獣では事象や時間の捉え方感じ方が違ってくるのだろう。そうとはいえ仙の記憶と思い入れが、日陰の村に対してとてもハッキリしているため、竜次が何となしに尋ねると、
「ふふふっ、随分昔にね。まあ昔話はいいさ、晴明の庵に行こうかね。あいつと会うのも久しぶりだねえ」
あまり詳しく語ることなく、若干はぐらかされてしまった。特に嫌な過去が日陰の村にあるように思えないが、話したくないことを詮索するのは竜次の性分に合わない。期待した答えは得られなかったが、それを胸にしまい、日陰山の麓にある晴明の庵まで一行は歩いた。
白壁の瀟洒な庵の前にある畑で、日陰菜に桶と柄杓で水やりをしている男がいる。ボロの作務衣を着ているが、この涼やかな目元の美男子は紛れもなく陰陽師晴明である。
「晴明さん、お久しぶり……いや、考えてみるとそうでもないですね。また庵まで伺いました」
「ああ、よくいらっしゃった。そろそろ来る頃だとは思っていたよ」
咲夜の挨拶を受け、晴明は農作業をそこで止め、手ぬぐいで汗を拭いていたのだが、意外な者が竜次たち一行の中にいるのを見つけ、
「はっはっはっ! 仙ではないか! 九尾の狐がこんなところまでどうしたのだ?」
と、嫌味なく親愛の情を込めて大笑いした。仙は赤珊瑚の飾りをアクセントに付けた、青いつば広の帽子を少し上げると、夏に咲く芙蓉の花のような微笑みを浮かべ、
「なんのことはないさ、この男が気に入っちゃってね。世話焼きついでについてきてるだけだよ。晴明、あんたと会うのも久しぶりだね」
そう、旧友との再会を軽く懐かしんだ。晴明は笑いを収めたが、まだ可笑しそうだ。ただ、仙が竜次を指し、『この男が気に入った』から一緒にいるのだという理由には、大いに納得している。
「やはり竜次殿か、さもあらん。それにしても面白いことがあるものだ。ともかく庵へ上がりなさい。茶菓を出そう」
相変わらずの無駄のない所作で農具を片付け、庵の中へ入ると、晴明は竜次たち一行を機嫌よく手招きした。