第116話 竜次専用甲種甲冑装備
「そうだそうだ、これを受け取りに来たんだよな。きっちり仕上がってるぜ。ちょうど最後の調整を、鎚でしていたんだ」
善兵衛は作業台の甲種甲冑装備を起こし、甲冑掛けにそれを丁寧に立て掛けた。寝かせていた時よりも漂う迫力が層倍になり、漆黒の甲冑の素晴らしい意匠が更に際立つ。
「凄えな……。本当にこんな物をタダで貰っていいのか?」
「前にも言ったろ? タダじゃねえよ。竜次さんたちにはとんでもない恩を受けたんだ。それの返しってことさ。この甲種甲冑装備だけで返せるとは思わねえけどな」
つまり気にするなということだ。その後、竜次と善兵衛は少しの間、立て掛けた漆黒の甲種甲冑装備を眺めていたが、
「さて、最後の作業をするか。竜次さん、ドウジギリをちょっと貸してくれないか?」
と、善兵衛は竜次に向けて手を差し出した。何をするのか気づいた竜次は、ドウジギリを腰から外し、善兵衛の職人らしい皮の厚みがついた手に、もはや自分の魂の一部とも言える刀を渡す。
慎重にドウジギリを受け取った善兵衛は、甲種甲冑装備とドウジギリの柄に器用な手早さで、あっという間に細工を施した。竜次にしか完全に扱えないその刀の柄には、黒いボタンが一つ増やされている。
「今まで使っていた乙種甲冑装備のボタンは残しておいたぜ。万一のことがあるかもしれねえからな。予備の甲冑ってわけだ。で、今付けた黒いボタンが、甲種甲冑装備を身につけるスイッチになっている。ちょっとここで試してみてくれ」
竜次はドウジギリを戻してもらうと、すぐに柄の黒ボタンを押し、甲種甲冑装備を戦隊スーツのように瞬間的に身に着けた。漆黒の甲冑パーツが体の要所部分を堅固に守り、それでいて伸縮性と防御性能に優れた全身のスーツ部分は、動きの邪魔に全くならない。
「こいつは想像以上だ! 乙種甲冑装備にあった、ちょっとした違和感がまるで無い! それに体の底から力が湧き上がってくるぞ! なんなんだこれは!」
「はははっ! 凄えだろ! 竜次さん、あんたのためだけに精魂込めて作った甲冑だ。大事に使ってくれよ。この甲種甲冑装備には、黒鱗鉱という特殊な法力を持つ鉱石を使っている。力が湧き上がってくるのはそのためだ。黒鱗鉱はかなり貴重なんだけどよ、三吉親方に甲種甲冑装備の材料を揃えてくれねえかと、前もって手紙を送ったんだ。そうしたら、ちょうど極上の鉱石を用意してくれてたんだよ。あんたは運がいいぜ!」
装備時の身体能力に黒鱗鉱の法力が作用し、機動性と攻撃能力が飛躍的に向上する。竜次専用甲種甲冑装備には、どうやらそうした特殊効果があるようだ。




