第108話 6匹の鬼の名
宮殿の地下書庫らしく、広い空間全体がしんと静まり返っている。そんな素晴らしい読書環境の中、竜次たちは、それぞれの分担になっている資料を読みふけっていたわけだが、厚い本の、ある行に咲夜は目を留め、
「あった! これだわ! この部分!」
と、発見の喜びで、思わず大きな声を上げてしまった。それを聞き、すぐ近くの書棚で作業をしていた管理官の一人が、
(お静かに)
自分の口に人差し指を当て、やんわりと咎める。国の姫様であろうと、書庫でのルールは守らないといけないということだろう。微笑で書庫管理官に謝る銀髪姫の姿も、それはそれでチャーミングであった。
咲夜が資料の中で見つけた数行には、アカツキノタイラの古語が多く使われており、多少意味が取りにくかったが、管理官が別で用意してくれていた辞書を引くことで、次のように解読できている。
(縁の国が建てられた前後の時代、多くのオーガたちがアカツキノタイラを荒らしていた。そのオーガたちを統括する、強大な妖力を持つ鬼たちがいた。総大将鬼の名は酒吞童子、そして副大将鬼の茨木童子、その茨木童子の配下の四天王と呼ばれる鬼たち、星熊童子、熊童子、虎熊童子、金熊童子……)
知りたかった鬼の名が全て分かり、竜次は目の前が急に開けた気がした。
「確かに6匹、こいつらを斬れば全てが終わるのか?」
「恐らくそうでしょう。ですが、この鬼たちの所在も復活しているかどうかも全く分かりません。手がかりをもっと多く拾うため、もう少し資料を読んでみましょう」
あやめはこうした時も冷静で、メモに強大な6匹の鬼の名を書き留めると、竜次を始め、皆にそう促した。核心とも言える部分に近づいたのは間違いないが、まだ他の資料を読み込めていない。入手できる情報は、まだまだあるはずだ。
静寂そのものの書庫で、閲覧机の席にそれぞれ座り、小声で竜次たちが話し合っている。一通り資料を読み進め、6匹の鬼の名前以外に重要な情報を、他にも手に入れることができたようだ。
その情報をまとめたのが下記になる。
(6匹の強大な鬼、酒吞童子、茨木童子、星熊童子、熊童子、虎熊童子、金熊童子は、アカツキノタイラの縁の国、暁の国、宵の国で、その昔、暴れまわっていたが、ある将たちが軍を率い、オーガを統括する強大な鬼たちの首を刎ね、6匹の鬼を全て退治していった。鬼斬りの軍の大将は、ドウジギリの使い手であったという)
総大将鬼の酒吞童子まで全て退治したということだが、それを斬った軍の大将の名は、どの関連資料にも書かれていなかった。また、補足として、
(6匹の鬼首を封印したが、妖力を完全に封じることはできず、後の世に復活する可能性がある)
と、記述があり、金熊童子が復活したことから、後の世とは今現在を必然的に指しているのが分かる。