第103話 国鎮めの儀式(2回目)
仙は咲夜に引っ張られるような形で大宮殿に連れて行かれ、当座の間、そこを本拠として泊まることになった。あのまま竜次の家に行かせていたら、成熟した男女のことだ、どういう間違いがあるか、そういった経験がない咲夜でも容易に想像できる。
(とんでもないことだわ! やっぱりこの女狐を引き入れたのは間違いだったかしら!?)
そう、想い人の竜次を何とか仙に取られまいと、男女のことを想像し顔を紅潮させながら、油断ならない九尾の女狐を連行していく咲夜の姿は、何ともいじましく、引っ張って行かれる当の仙すら、その可愛らしさを見て優しく笑っていた。
本拠地である連理の都に無事戻った皆は、それぞれの家で芯からぐっすり休み、翌朝を心地よい目覚めで迎えた。そこで話を変えるわけではないが、竜次たちは、仙の縮地による瞬間移動で都へ帰っている。つまり、平昌幸、幸村親子が率いる軍勢より、早く帰って来てしまったということだ。
上述した理由により、咲夜と竜次を始めとする将たちは、縁の国の頭領である昌幸が帰還するまで、連理の都を守備しつつ、数日間待機する必要があった。国家存亡を賭けた大戦に、平昌幸自身が出陣したため、都にはほとんど守備兵力を統括できる将がいない。それゆえ、咲夜たちが縁の国の首都に早く戻れた意義は大きく、昌幸がそれに遅れて都へ帰還した後、皆は大きな評価と感謝を受けた。
夏のにわか雨が強く降る朝、竜次の姿は、大宮殿の神事の間にある。神聖な白装束を彼は身につけており、いつになく凛々しく、神妙な面持ちを見せている。
「それではこれより、2つ目の銀杯を用いた国鎮めの儀式を執り行う。咲夜、祭壇の前へ出よ」
「はい」
前回の国鎮めの儀式を行った時と同様な巫女装束で、咲夜は静々と無垢の祭壇の前まで歩くと、2つ目の銀杯が置かれた前に座り、儀式の真言を一心不乱に唱え始めた! 神がかったその祈りは、国鎮めの銀杯に深く通じ、銀杯から、祭壇に掛けられたあらゆる摂理を表す曼荼羅に向かって、青い光が一直線に伸び、その一部を照らす! 強く大きな法力を使った咲夜は消耗が激しく、国鎮めの儀式が成功した後、肩で息をしていた。座っているのがやっとのようで、息が整うまで兄幸村が傍に寄り添い、咲夜の体を柔らかく支え続けた。
「大丈夫か? 咲夜?」
「はい……儀式は、今回も成功しました」
「うむ、よくやってくれた。しっかり休め」
身を削るような咲夜の祈りが届き、1つ目の銀杯の赤、2つ目の銀杯の青、それぞれの光が摂理の曼荼羅を神々しく照らしている。それに伴い、アカツキノタイラ全体を覆う不穏な空気がまたほんの少し和らぎ、それが実感として神事の間にいる皆の肌に伝わっていた。