第101話 生きている感慨
縮地の術で竜次たちが現れた場所は、連理の都大門前に壮大な規模感で広がる、田畑のあぜ道である。幾らか遠くに、朱色の大門と連理の都の威容が、ほぼ落ちかけた日のわずかに残る光に映えて見える。大戦に勝ち、縁の国を守り抜いた感慨が、竜次たち皆にこの時去来し、
(帰って来たんだな)
都の大門へしっかりと足を進めながら、周りの青々とした稲の葉を見るともなく見て、誰しもがそう思っていた。
連理の都から離れていた期間は、今回の出征でも長くはなかった。しかしながら、結ケ原の合戦で激闘を繰り広げ、死線をくぐり抜けた竜次たちや咲夜にとって、目の前に広がる区画整理された町並みは懐かしく、安堵の感慨が心に満たされるあまり、少しばかり目を潤ませる者もいる。
「戦になら今まで数え切れぬ程出たものじゃが、今回のような大戦で働いたのは、わしでさえ初めてじゃった。それもあってか、何やら都が久しぶりなように見えるのう」
「本当ですね。あの金熊童子と戦ったことを思い出すと、連理の都へ無事戻れたのが不思議に感じます」
朱色の大門をくぐり、都内を少し歩いた所で、守綱とあやめは少しの間立ち止まり、自分たちの生を確認するような感動を、夜の帳が下りつつある、都の静かな町並みに覚えている。そうした心からの感慨を覚えているのは、当然守綱とあやめだけではない。竜次、咲夜、それに九尾の狐の仙でさえも同様であった。
「暗がりであまりはっきりと見えねえところもあるが、これが連理の都か~。やっぱ縁の国の都だけあって、凄く栄えた町並みだな。結の町も大したもんだったが、それとは一回りも二回りも違うぜ!」
合戦を戦い抜いた将たちとは違う感慨で、あちこち町を眺めている者が一人いる。甲冑職人善兵衛である。彼は甲冑職人としての修行を里で積み、身につけた力量を振るって、この都で一旗揚げようとしている。そうした若者らしい、希望と野心に輝いた目を見せ、ここまで連れてきてくれた仙と竜次たちに、礼と別れの挨拶を話し始めた。
「仙さん、皆、連理の都まで送ってくれてありがとう。いくら感謝しても感謝しきれねえ。言わなかったけど、この都にはちょっとつてがあってな。そこを頼って泊まらせてもらうことにするよ。この礼は、そうだな……」
そこで一旦、善兵衛は言葉を切り、真剣な顔で竜次の方を向くと、
「竜次さん、あんたに逸品の甲種甲冑装備を作って、返させてもらうよ。あんた専用の甲冑装備だ」
そう心強く請け負った。善兵衛は、結の町の武具屋で竜次を見定めていた時、彼の体格を全て頭に入れたらしい。この凄腕の甲冑職人なら、きっと素晴らしい甲種甲冑装備を作ってくれるだろう。