第1話 赤鬼と銀髪の姫
会社の更衣室で汚れた作業着から私服に着替え、今日も仕事帰りの家路につく男がいる。自由気ままを絵に描いたような風貌のおっさん……と言ったら30半ばの彼は怒るかもしれない。源竜次という名前の刺繍が入った作業着をロッカーに片付けた彼は、工場での日勤を終え、西に傾いた夕日が眩しく差す、社宅への一本道を歩いていた。
今は初夏になりかけている。道の両脇に植え込まれているツツジは色鮮やかに満開であった。竜次はこの季節の帰り道が好きで、
(今年もよく咲いたな)
と、なんとない鼻歌交じりに紅白のツツジを楽しみながら、のんびり足を運んでいる。
いつもどおりの平和な一日の終わり、彼の帰りを見守るように、西の空から傾いた陽を一本道に照らすお天道様すら、そう思っていた。
鬼のように厳しい人は世間に沢山いるが、本物の鬼を見たことがある人は恐らくいないだろう。だが、信じられないことに、そこへ居たのだ!
「ありゃなんだ!? ここは社宅の帰り道だよな!? 見間違いか!?」
竜次は咄嗟に目をこすってみたが、見間違いではない! 戦国絵巻に出てくる時代掛かった風貌の小兵団が、竜次の倍はあろうかという赤鬼と対峙している! 彼らが守る後方では、鮮やかな桜色の衣を着た、まだ幼さが顔に残る銀髪の美少女が、必死の集中で地に祈り、結界を張っていた。彼女を守る兵団も必死の形相である。恐らくは主従で、美少女はどこぞの姫なのかもしれない。
「たあああぁぁあ!!」
兵団長と思しき者が赤鬼に斬りかかり、あとに数名の部下が続いた! よく訓練された悪くない連携だが、いかんせん、筋骨隆々の鬼に通じきる攻撃ではなく、ほんの浅手を丸太のような右腕に負わせるのが精一杯である。
「ウガアァァアー!!!」
そして、その攻撃の代償は高くついた! 凄まじい膂力を持つ両腕による薙ぎ払いを受け、斬りかかった者たちは、ほとんど弾き飛ばされる! かろうじて受け流し、刀の構えを取り直すことができたのは、兵団長だけだ。銀髪の美少女が張る結界の力がなければ、それも叶わなかっただろう。
「見てられねえ……何とかしないと!」
恐れより勇気が勝った。竜次は歯を食いしばり、異形との戦いに身を投じるため、全速力で走る!
「?! なんだ!? お主は!?」
「助けに来たぞ!! 得物を貸せ!!」
どこの馬の骨とも知らぬ者が、役に立とうか。そう思ったが、兵団長が腰に帯びている宝刀が強く輝き、源竜次と共鳴している!
(ええい! 一か八かよ!!)
どの道このままでは、皆、されこうべだ。決断した兵団長は、宝刀ドウジギリを鞘ごと投げ渡し、竜次はそれをスラリと抜き、上段に構え、鬼を素晴らしい気迫で威圧した!
その姿は鬼神の再来かと、その場の誰しもが思った。刀と人の力が見事に渾然一体となっている。