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「崩れ行く日常」 都市伝説ネタ12「絶望のビデオテープ」より

作者: 雷禅 神衣

孝也は自分の妻が日に日に衰えて行く姿を見るのが何より辛かった。

妻の香澄は見るからに痩せて行き、行動一つ取っても鈍くなっている。それは年齢による老化ではない。彼女はまだ34歳だ。

女の34歳といえば完熟した肉体と精神で、本来の女としての魅力を発揮していく年代である。

それが今の香澄には感じられない。徐々に衰えて行く姿はまるで老婆だ。

勿論、夫の孝也も似たようなもので「あの事件」以来、精神が蝕まれて行った。

今犯人が目の前にいたら、間違いなく八つ裂きにするだろう。

そんな思いに駆られて、もう4日目に入った。


事の発端は娘の清香が何者かに誘拐された事が原因だった。

日曜日の昼下がり、近くの公園に遊びに来ていた所で起こった事件だった。

時間にすればわずか数分。一時的に娘を見失った隙に清香は居なくなってしまった。

清香が居なくなった事に気付いたとき、公園の入り口付近で車が急発進したのを今でも良く覚えている。

通報を受けた警察にその事を話すと、恐らく誘拐だろうと言っていた。

警察は誘拐事件として捜査本部を設置したが、清香が疾走して3日目になっても、有力な情報は入って来なかった。

しかし4日目の今日、清香が誘拐されたと言う事実が明らかとなる証拠が我が家に送られてきたのだ。

それは一本のビデオテープだった。A4サイズの茶封筒に入っており、送り主は不明。

訝しげに思った孝也は妻の香澄と共に再生ボタンを押した。

そして映し出された映像を見て愕然とした。

撮影された場所は地下のようだった。薄暗い部屋の映像が浮かび上がり、部屋の中央に真っ白のベッドが置かれている。

そのベッドの上に娘の清香がいたのだ。

どうやら音声機能は付いていないカメラで撮影されたらしく、音声は一切入っていなかった。

それが証拠に泣き叫ぶ清香の鳴き声は聞こえてこない。

「清香!!」

「ああああ・・・なんて事だ・・・」

娘の清香は密室に閉じ込められ泣きじゃくっている。

「清香!!清香!!ああああああ!!」

香澄は液晶画面に駆け寄り、泣き崩れた。孝也も今にも狂いそうだった。

何処かも分からない場所で娘が泣き叫んでいる。我が子だ!これから手塩に掛けて育てようとしていた愛娘である。

それが誰とも分からない輩に誘拐され、密室に監禁なんて・・・。

孝也は見ているだけで気が狂いそうになった。とても耐えられるような映像ではない。

「何が目的なんだ・・・どうしてこんな事を・・・・」


事態を知った警察も分析に乗り出した。しかし送られて来たテープに指紋はなく、出所がまったく掴めない。

頼みに綱は映っている場所の分析とその住所だった。

だがその判別の熾烈を極め、明確な分析に至る成果は得られなかった。

更にその翌日もテープは送られてきた。

今度は泣き叫ぶだけではなく、頭を掻き毟る様子が延々と続く映像。

「清香・・・清香・・・・」

絶望の映像は更に続き、その後もテープは送られ続けた。

日を増すごとに清香は弱って行き、身体も痩せこけ始めている。

最初は泣き叫んでいたその身体も、徐々に力を失いぐったりとして行く。

そしてテープが送られ始めてから4日が過ぎた頃には、娘の清香はまったく動かなくなってしまった。

「清香!清香!!あああ!!ああああああっ!!どうして・・・どうしてこんな事に・・・」

「清香・・・・なんでこんな事を・・・どうして・・・どうしてなの!!」

絶望のビデオテープが送られ始めて1ヶ月が経った。

映し出される映像にはもはや正常な清香ではなかった。あるのは腐り果て、ミイラとなった清香の死体だけ・・・。


事件から2年経った今でも、ビデオテープが送られてくると言う・・・。



END

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