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【Make up mind①(決心)】

 レストランを出て、車に乗り郊外を走る。

 窓を開けていると気持ちの好い風が入って来る。

「今の時期は、エアコンより自然の風の方が気持ちいいな」

 前に顔を向けたままのハンスに目を向けると、窓から入って来る風によりネクタイを緩め無造作に開けられたシャツから喉の尖った膨らみと覗く逞しい胸元が見えてドキッとする。

「そ、そうだなもう10月だからな」

 俺は火照った顔を風に押し付けるように、外を向いて言った。

 このままハンスを見続けていると、その腕に手を絡め、ワイシャツのボタンを外して抱きついてしまいそう。

 そして思いっきりキッスをせがむ。

 キッスの範囲はお互いに自由自在……。

 今まで考えもしなかった事が、我慢できくなる自分が怖くてハンスから距離を取るためにドアに寄りかかった。

 自分の気持ちへの、微かな反抗。

 少しドライブを楽しんだ後、車はパリ郊外にある森の中の湖畔に立つ静かな店の前で止まった。

「またレストランか?」

「酒だけでもOKだが、何か食べるか?」

「いや……」

 ドアを開けると、カランカランと好い響きのカウベルが鳴る。


「いらっしゃいませ」

 落ち着いた年配のマスター。

 客はマスターと同じような年代のカップルが数組、食事とお酒を楽しんでいた。

 俺たちは外のベランダ席に座りシーフード入りのサラダとデスペラード(テキーラ入りのビアカクテル)を注文して湖畔のベランダ席に座った。

 風が気持ちいい。

「意外に、良い店を知っているな」

「美食家ではないが、雰囲気のある店は好きなのでな」

「休日は良く来るのか?」

「ここに限らず、そう言う店を探すのが趣味だ」

“趣味……”

 はじめて知った。

 思いもつかなかった。

 ハンスに、こんな趣味があるなんて……。


 デスペラードを一口飲み込んだハンスの喉からゴクリと音がして、女性には無い喉の突起物が音と連動して動く姿に目が捕らわれてしまう。

 コップを持つ大きな手や、少し開けた襟の下、シャツに隠されている逞しい胸板を想像してしまい胸が高鳴る。

「しかし部隊内に密告者が居るとういうのは危険だな」

「あっ、ああ。探し出すか?」

 ハンスに急に言葉をかけられて、咄嗟に切り返したものの、まともな返事にはなっていない。

「探し出しても無駄だろう。密告したのは一味じゃない。どうせ軽く声を掛けられただけで罪の意識すらない小遣い稼ぎだろうからな」

「アルバイトか……」

「そう。奴らの常套手段」

「罪の意識の薄い所を付いて来るやり方は、パリでテロを企てたメヒアの元でサバイバルゲーム大会やドローンの大会を企画してテロを実行しようとしたジュジェイのやり方に似ているな」

「ああ、何も知らない一般市民をテロに利用する汚いやり方。メヒアの様な剥き出しの悪党の方が可愛らしい。ひょっとしたらジュジェイも奴らの一味だったのかも」

「可能性は無いとは言えんだろうな……」

「まさかコンゴの時も?!」

 そう言ってハンスの青い目を見つめなおす。

「おそらくな……」


 コンゴ。

 国連治安維持軍としてコンゴとルワンダの国境地域を監視していたナイジェリア軍が突如として反政府軍に襲われた事に端を発し、俺たち外人部隊が森の中に逃げ込んだナイジェリア軍を救出するため現地に派遣された。

 しかしその作戦中に後方に陣地を張っていた司令部が、寝返ったンガビ少佐により支配下に置かれハンスは上手く脱出したものの、他の司令部要員は拘束された。

 同じ頃、首都キンシャサでも足止めを食らっていた現地指揮官のペイランド少佐たちは大統領暗殺事件に巻き込まれてしまった。

 俺たち前線部隊は反政府軍の前線部隊を蹴散らし、戻って来たハンスと少数の仲間たちで司令部を救出し、キンシャサではDGSEのエマ少佐が大統領暗殺を阻止することに成功し事件の首謀者である国務省の高級官僚ヌング氏と、その秘書官キャディアバ、それにニョーラの政府軍司令部副指令のンガビ少佐の全員が不可解な死を遂げて事件の幕は下りた。

「エマたちの事や俺たち第4班の解体も、奴らが?」

「そう考えてもおかしくはない。いや、そう考えると全ての辻褄が合う」

「どうする?ハンス」

「今回ばかりはお手上げだろうな。なに政府にまで圧力を掛けてくる連中だからな」

「らしくないな」

「俺に出来ることは、もう手を打った」

「なるほど、それが2週間の特別休暇って訳だな」

「まあな」

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