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【Epilogue(エピローグ)】

 遅れて来たサオリとエマ、そしてヤザとレイラと昼食を済ませ2階のラウンジで紅茶を飲みながら、これからの事の話をした。

 もちろん俺たちではなくて、ヤザとレイラの2人の将来の事。

「結婚するのは好いとして、生活や収入の事も考えないと……やっぱりDGSE(対外治安総局)に残ったらどうなの?」

「ありがとうエマ。でもそれは無理よ。DGSEの職員の夫が指名手配は解除されたとはいえ、まだイラクやシリアで戦い続けているザリバンの元上級幹部だなんて、笑い話にも使えないわ」

「あれ、ヤザ、辞めたのか?」

「ああ、俺ももう40半ばだしな。アサム様の口添えで軍部の管理職を用意してもらったが、勉強も出来ない俺では直ぐに身から錆が出て来そうで断った。かと言って娘の事を心配しながらでは、もうこんな戦争ごっこも続けられねえ」

「心配してくれていたのか」

「ああ、赤十字難民キャンプから居なくなったと言う情報をバラクから受けてからズット」

「いつ知った」

「お前がリビアでバラクと再会した時、あいつが喜んで連絡してきたさ。敵だと言うのにな」

 そう言ってヤザは本当に楽しそうに笑った。

「すまない」

「いいてことよ。こんな稼業をしていれば、いつ死ぬか、どこでどんな死に方をするかなんて分からない。チャンと墓地に埋葬されただけでも、あいつは幸せ者さ」

「ところでDGSE復帰が無理なら、一体どうするの?レイラは誰が見てもペルシャ風美人で好感持たれるけれど、ヤザの方は知らない人から見ると完璧なイラン人よ。特にフランスはアジア人や中東に対する差別意識が強いわ」

「そうだなぁー大学はイギリスだから、学友の伝手でも頼ろうかしら」

「イギリスにイラン人なんて、それこそ警戒され過ぎよ」

「だったら、故郷のリビア」

「駄目、まだまだあそこは不安定要素が高すぎる。結婚して子供が出来た時に第2第3のナトちゃんになったらどうするの!」「あっ、ゴメンねナトちゃん」

「いいよ。エマの言う通り、結婚したら子供が生まれる。どうせ住む国を変えられるなら、人種的な差別が根強い国や治安情勢の悪い国は避けるべきだと俺も思う」

「日本はどう?」

 それまで黙って聞いていたサオリが言った。

「日本?」

「そう日本。確かに第2次世界大戦までは東洋の暴れん坊として短期間に何度も大きな戦争をしたけれど、1945年の終戦以降80年近く戦争や紛争が無く平和を維持しているわ。差別も他の国よりは大分マシだと思うし、ほりの深い中東や欧米人に対しては差別と言うより“憧れ”の感情が強いわよ。それに日本人は特に美女には親切だし」

「私もヤザも日本語は話せないわ」

「そんなの環境の問題よ。日本に住めば日本語なんて直ぐに覚えちゃうわよ、だって日本人の殆どの人はは英語を“話さない”のだから、必然的に日本語で話すしかないからね」

「でも、仕事は?」

「レイラはDGSEで情報収集活動に携わっていたんでしょ?」

「そうだけど」

「そして、ヤザは元大工」

「ああ」

「腕は落ちていない?」

「そりゃあ、ザリバンだって年がら年中戦争している訳じゃないかなら」

「じゃあ決まりね!」

 “SISCON!”

 そう言えばガモーが引っ越しに忙しいと言っていた。

 引越しをすると言う事は、場所を変えて基地を知られないようにするための他に、規模の拡大という目的もあるはず。

 DGSEの情報処理担当者と大工のカップルは、まさにうってつけ!

「さあ行くわよ。用意して!」

「行くってどこに?」

「私たちの用事は済んだから、日本に戻るのよ」

「日本に戻るって、俺は……」

「ナトちゃん、まさか帰りは私一人で操縦しろと言うんじゃないでしょうね?それに帰りはハネムーン客を乗せるのよ。極上のCAキャビンアテンダントも必要でしょ」

「レイラ住所が決まったら教えて、荷物は任せてね」

「ゴメンねエマ、一杯迷惑かけちゃって」

「いいのよ。日本での仕事に飽きたら、いつでもフランスに戻っておいで」

「うん、ありがとう」

「チョッとサオリ、飛行機の時間て何時?」

「あー、あと2時間後よ」

「1時間後?!いつ連絡したの?」

「到着した時だけど」

 呆気にとられる俺の顔を、逆に不思議そうな顔で見るサオリ。

 作戦が失敗するとか、会談が延期になると言う可能性は考えなかったのだろうか?

「不安要素は一切考えなかったよ。だって見方にはナトちゃんが居るんだもの」

 部屋に戻って、急いで出発の準備をする。

「さあさあ早く、早く!」

 タクシーに飛び乗って空港へ向かう。

 皆への連絡はエマに頼んでおいた。

 自分で言うのも変だが、みんなにガッカリさせてしまうと思うと後ろ髪を引かれる思い。

 ヤザとレイラを一旦空港のロビーに置いて、パイロットとしての準備をしてくる。

 服を着替えて2人を迎えに行くと、2人から「スパイ映画を観ているみたい!」と言ってもらった。

 まあクシャクシャの普段着から、パリッとしたパイロットシャツを見れば誰でもそう思うに違いない。

 時間がないけれど、ガモーに何かお土産を買わなくてはと思いショップに立ち寄る。

 なにせガモーは、ミランたちを日本に引き付け、エマやハンスに連絡してくれた今作戦の影の功労者なのだから。

 干し肉に手を伸ばして、止めた。

 “なんでアフガニスタンまで行って、干し肉やねん。ワザワザそんな土産物屋で買わんでもスーパーに行けばもっと安うて美味しいもん売ってるでホンマ金銭感覚のないやっちゃ”

 心の中でガモーの文句を言う声が聞こえた。

 次に手を伸ばしたのは、アフガニスタンの国旗をモチーフにしたマグネット。

 これなら実用的だし、他では買えない。

 “マグネット。あらホンマに助かるわ――と、言ってあげたいところなんですけれど、きょうびドコソコノ景品やらでマグネットなんてザラにあります。なんでもそうなんやけど、ただで貰うのは嬉しいですがワザワザそんな他所の国の国旗が付いたマグネット貰うよりも、自分の気に入ったデザインの物を貰った方が正直嬉しいです”

 これも駄目……。

 絨毯!

 “なんで絨毯の切れ端やねん!普通、部屋の寸法に合わすやろ!

 缶詰!

 “さっきも言いました。そんなもんスーパーの方が安くておいしいです”

 茶碗!

 “お前戦争に出る職業やろ?そんな奴から貰った茶碗なんか、割れでもしたら気味悪うて、よう使わんわ”

 写真、絵葉書、ポスター、カレンダー。

 “ネットで探せば似たような写真は沢山出て来ます。そんなもの買うお金があったら、プリンターのインク買ってきてくれたほうがまだマシでした”

 クッキー。

 “だからスーパーで買えるって、何度も言ってますやん”

 あー……もう駄目。

 心が折れた。

 行き詰って天井を見上げた時、もうやけくそで、そこに張り付けてあったものを購入した。

 サオリと2人コクピットに乗り込む。

 ヤザとレイラは、直ぐ後ろのラウンジ。

 貨物機とは言え、元々は旅客用の機体。

 ラウンジスペースは、それなりに快適だ。

 各種計器類のチェックを終え管制塔に出発の意志を伝える。

「Hamid Karzi International ground ,Nippon Cargo Airlines 508 , Request push back」

(ハミド カルザイ国際線、日本貨物航空 508 、リクエスト プッシュバック )

“Nippon Cargo Airlines 508, pushback approved. Allow entry to the runway”

(日本貨物航空508便、プッシュバック承認。 滑走路への進入を許可する )

 エンジンを始動し、滑走路に向かう。

「凄いなナトー。飛行機の操縦も出来るのか!」

「いつの間に覚えたの!?」

「日本から、ここへ来るとき。危ないからシートベルトをしていて」

「الله!(神様!)」

 2人は慌てて席に戻った。

“Hamid Karzi International ground ,Nippon Cargo Airlines 508 , Request OK”

(ハミド カルザイ国際線、日本貨物航空 508 、リクエスト オーケー)

「Thank you. I'm looking forward to a better city next time」

(ありがとうございました。 次回はもっといい街になっているのを楽しみにしています)

“Thanks to you. It is also the wish of all people”

(ありがとう。それは我々皆の願いでもあります)

「Everyone's wishes will come true」

(皆の願いは、必ず叶います)

“Thank you. I'm looking forward to seeing you next time”

(ありがとうございました。 次回お会いできるのを楽しみにしています )

「Me too」

(私も今度訪れるのを楽しみにしています)

 飛行機は無事飛び立った。

 管制官の言う通り、今度この国へ来るときに、どれだけ良い国になっているか楽しみだ。

「ナトちゃん、すっかり慣れちゃったね」

「それは隣にサオリが居るからだろう」

「あら、私は何もしていないわよ」

「嘘」

「嘘じゃないよ。ほら!」

 見せられたのは、今回の出張費申請書。

「えーっ!サポートしてくれていなかったの?」

「だって、サポートする必要がなかったんだもの」

 そう言うとサオリは機内放送のスイッチを入れた。

「Welcome to our plane.

The plane departs Hamid Karzai International Airport at 15:30 and is scheduled to arrive at Haneda Airport at exactly 6 o'clock Japan time.

It will be a long trip of about 10 hours, but all the staff will take care of you so that you can relax slowly.

If you have any questions or concerns, please do not hesitate to contact the staff.

Thank you for using this aircraft today.

Please enjoy a good trip」

(ようこそ当飛行機へ。

この飛行機はハミード・カルザイ国際空港を15時30分に出発し、羽田空港へは日本時間6時丁度の到着を予定しております。

約10時間の長旅では御座いますが、ゆっくりくつろいで下さいますようスタッフ一同心を込めてお世話させて頂きます。

何かご不明な事、ご心配な事等ございましたら遠慮なくスタッフにお申し付けください。

本日は当航空機をご利用くださいまして誠に有り難うございます。

それでは良い旅を楽しんで下さい)


【Ending scene(最後の情景)】

 ナトーたちの飛行機は、何事もなく羽田への着陸態勢をとる。

 窓の向こうに見えるのは、今日の世界を暖かで明るい希望ある物にするために遥か水平線の彼方から登り始めた真っ赤な太陽。

 その太陽に向かいながらナトーの無線が聞こえる。

「Tokyo ground, Nippon Cargo Airlines 508. Request a landing permit」

(東京グラウンド 日本貨物航空 508.着陸許可申請願います)

“Welcome home. Please invade from number 34. Be careful as the sun is in front of you”

(おかえりなさい。 34番から侵入してください。太陽が目の前にあるので注意してください)

「Thank you very much. The bright red sun is mysterious and wonderful!」

(どうもありがとう。 真っ赤な太陽が神秘的で素晴らしい! )

"It looks like the Japanese flag"

(日本の国旗みたいでしょ)

「The red sun is a symbol of peace and courage」

(真っ赤な太陽は平和と勇気の象徴)

"Thank you Peace is our continuation"

(ありがとう。平和は私たちの誇りです)


                               The End


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