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【Description of the battle.②(戦いの詳細)】

 自分で“馬鹿な事あるか”と言ったものの、まるでナトーの言う通りになっていた。

 敵の右肩ばかりに当たっていたと言う事は、ナトーの調整が無ければそいつらの殆どは俺の狙い通りヘッドショットを決められて即死していたことになる。

 まてよ……いくらスコープの調整をずらしたと言っても、もしも俺が敵との距離を400mにしていなかったらどうだろう?

 距離が近すぎると、ずらした効果は少なく、遠いとズレはより大きくなり、まったく何にも当たらなくなる。

 丁度ヘッドショットを決められる所に照準を合わせて、キッチリ敵の肩に当てるにはおそらく350~450mの範囲内でしか起こらない現象なのだろう。

 と、言う事は、ナトーは俺が敵との距離をどのくらい開けるのかも予測していたと言う事なのか……。

「なあ、なんで俺が敵を400mの距離で止めたと思う?」

「さあ。100や200では訓練された俺たちと、素人の差が付きにくく、300だとライフル射撃愛好家たちには慣れた距離になってしまうから400mの距離を置いた。これだと全力疾走してきても早い奴でも1分は掛かってしまうだろ。しかも1分でこちら側に辿り着いたとしても酸欠で戦うどころじゃない」

 まるっきり当たっている。

「じゃあ500mでも良いんじゃねえか?」

「いや、500は無い」

「なんでだよ」

「そもそも500の時は、まだ敵との距離をどのくらいにすると言う考えに至っていない」

“こ、こいつ、まるで隣で見ていた様に正確に当てやがる!”

 凄っげー美人でスタイルもモデル顔負け、こんな所に居なけりゃハリウッドの映画会社がスカウトに来てもおかしくない上に、頭も良くて裏表なく優しく人に接する頑張り屋。

 我慢強い上に自己犠牲心が強くて、決して競争心は表には出さず、利己主義的な所は微塵もない。

 俺にとって、まるで絵に描いたような理想の女性像だが、こうも俺の行動を読まれたと合っちゃあ少し問題だ。

 こりゃあ結婚しようものなら、いい様に手綱を引かれそうだ。

 しかし、ここで大きな疑問が浮かんだ。

 それは俺が敵の狙撃手に撃たれなかった事。

 もちろん絶妙なタイミングでナトーが援護してくれたことは分かるが、はたしてそれだけだろうか?

「敵の狙撃手を殺ったのはナトーか?」

「狙撃手を殺った?」

「じゃあ、生きているのか?」

「生きているし、ミランはトーニの弾に当たって負傷したんだよ」

「俺の撃った弾?なんで?今まで通りなら囮のM-82を持った奴の左肩に当たっているのと違うのか?」

 ナトーは優しく笑い言った。

「だってトーニは訓練の時、いつもそうじゃないか。気合が入り過ぎると必ず右に逸らす」

「あっ、なるほど!」

 俺の弾を食らった事で、奴の弾道は少しズレて俺の直ぐ上にあるヘリの鉄板に当たり、驚いた俺は飛び上がってヘリの底面の鉄板へ思いっきり頭をぶつけ気絶してしまった。

 俺が気絶した後、正面と左右からの敵の突撃を止めたのは、俺自身が仕掛けたトラップ。

 俺は気絶していたからトラップのスイッチを入れる事は出来なかったが、ナトーが手伝ってくれた時、崖からの射撃で遠隔操作が出来るようにと言われたので、弾丸で起動する信管も備えておいた。

 だからナトーがその信管を崖の上から打ち抜き、正面と左右に仕掛けておいたヘリのガソリンを使った発火装置が爆発してくれた。

 だが、それだけでは敵の突入は防げないはず。

 第一肝心のヘリに居る俺が気絶しているのだから。

 LéMATの仲間たちにしたところで俺が気絶する前には居なかったし、もしその直ぐ後に現れたとしても奴らは敵の背後だから、敵を止めるのではなく追い立てる事になってしまう。

“もしかして!”

 丘の上を振り返ると激痛が走った。

「いてててて」

「ほら、首を痛めているんだから、急に振り向くんじゃない」

 ナトーがそう言って優しく首を揉んでくれる。

“やはり居た”

 丘の遥か上を歩く人影が4つ。

 真中に背の高い男と対照的に背の低い女、その両脇を背の高い女2人が並んでいた。

「エマたちが助けに来てくれたんだな」

「そうよ、有難いわ。確かに大阪の陣で真田丸は獅子奮迅の活躍を見せたけれど、孤立しただけの出城で出来るのは防御だけ。ヤザとサオリそしてエマとレイラが応援に来てくれて、LéMATが前線と後方の敵を分断してくれたからこそ、私たちは勝つことが出来たのよ」「ありがてえ。でも、次は後方の敵がやって来るってえ訳だな」

 こうしちゃいられねえと立ち上がろうとしたとき、何者かがナトーに声を掛けて来た。

「やあ軍曹、また大暴れですね」

「ゴードン!ありがとう君たちが後方の奴らを抑えてくれたのか。しかし、いいのかPOC相手では中立を守らなければならないのでは?」

 このゴードンと言うヤツは、先のザリバン高原での死闘の際にナトーと共に墜落した輸送機に立て篭もって戦った7人の戦士のうちの一人。(『グリムリーパー』死闘!ザリバン高原)

「いいんですよ。俺たちの任務は平和維持のためのパトロール。だから麓で大量の武器や弾薬を運ぼうとする奴らを放って置く事は中立とは言えないでしょ。だから全員検挙させてもらいました」

「やるなぁ伍長!」

「ああ礼なら、軍医のライス大佐に言って下さい。何故か分かりませんが大佐が俺たち山岳パトロールに、この地域で不穏な動きがあると言う情報を伝えて根回ししてくれたのですから。覚えていますか」

「ああ、覚えているレイとゴンザレス、キムにフジワラやその他大勢の怪我を治療してくれ感謝している」

「キムとフジワラは元気ですか?」

「キムは除隊した。フジワラはリハビリ中だが、もう第一線は難しいだろう」

「そうですか……」

「伍長、小隊長がお呼びです」

「分かった、直ぐ行く」

 呼び出しを食らったゴードンが別れ際に「また基地に遊びに来て下さい、先週からジムも相棒を連れて来ているんですよ」と言って戻って行った。

 また一回り逞しさを増したゴードンの後ろ姿を見送りながら、俺はあの日ライス大佐と交わした言葉を思い出していた。

 それは負傷した仲間との面会を終えて帰りかけた時のこと。

 俺は救えなかった……いや、救うつもりもなく見捨ててしまった重傷者の事を想い、階段の下で泣き崩れてしまった。

 俺は心底戦争を怨み、止めたいと介抱してくれるライス大佐に告げた。

 大佐は言った。

「今は出来なくても、いつかきっとそのようなことが出来る。おそらく君はそれをするために今まで苦労を重ねて来たのだと」

 今思えば、サオリがP子に伝言を頼んだのは日本のガモーの元ではなく、バグラム空軍基地に居るライス大佐だったのだろう。

 屹度そのライス大佐も、サオリと同じSISCN。

 正確な情報と伝達手段により俺たちは救われた。


「トーニ、何ボケっとしてるんだ?」

「まあ、今日くらいはマケテやれ、なにせヘリの中で、一人で戦った英雄なんだからな」

 ジェイソンの言葉をフランソワが制止した。

 だが、ジェイソンが言う通り、たしかに今の俺はボーっとしている。

 その原因は、やはりナトー。

 アイツが言った最後の会話。

 俺の痛めた首を摩りながら優しくエマたちが応援に来たことを説明してくれたが、その言葉遣いは日頃耳にする男言葉ではなくて、女性としての話し方だった。

 “何故!?”

 俺は慌てて拘束して護送されるPOCたちの列に向かって走り、目当ての男を見つけ出した。

 POCの幹部、指令であり狙撃手でもあるミランだ。

 右肩に血の滲んだ包帯を巻いている。

「見せろ!」

 言うよりも手の方が早かった。

「おいコラ!何している!」

 誰かが叫ぶが、構っちゃいられねえ。

 俺はミランの包帯を解いた。

 “やはり”

「君、駄目じゃないか!まだ犯罪者と決まった訳ではないし、彼は負傷者だ、それを――――」

 将校らしい奴がクドクドとお説教を言っているが、もう俺の耳には届かない。

 何故ならミランの傷口を見てしまったから。

 ナトーはミランは俺が撃ったと言った。

 確かに俺の弾はカスっている。

 だけど、それは的を外すほど強烈なものでではない。

 的を外させたのは、ミランの肩に付けられたもう片方の傷。

 その傷は俺の付けた傷と交差するように、×印を肩に刻んでいる。

 ナトーだ。

 崖の上から撃ったから×印になった。

 だが何故、ナトーは俺にその事を言わなかったのだろう……。

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