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【Departure, Sanada Maru!②(出陣、真田丸!)】

「じゃあコレ、ヘリを落とすのに手間取って少なくなっちまったが、勘弁してくれ。まあ腕のいいナトーなら、これで十分かも知れねえがな」

 トーニからM203グレネードランチャー付きのM-16と、残ったグレネード弾を受け取る。

 結局トーニに押し切られて、俺が上の岩場でサポートする係になった。

「後悔しないか?まだ変更してもいいぞ」

「後悔なんかするもんか。好きな女の盾となる役目だ。その盾が無くなっちまってどうするんだよ!」

 威勢よく笑ったトーニだったが、言葉とは裏腹に、その2つの目は自信なさそうに地平線を彷徨っていた。

 俺はトーニの肩に手を回し、頬にキスをして「ありがとう」と言う。

「なっ、なんでい!いきなり!」

「すまん。男同士でキモかったな……」

「ま、まあ好いんじゃないか、軍隊じゃ良くあることだ。ただ、いきなり過ぎるぜ」

 トーニが続きを求めるように、唇を尖らせる。

「オアズケだ」と言い、その唇に指を押し付ける。

「おあずけ?」

「そう。続きは、お互い無事にまた会えた時」

「なるほど、そりゃあ俄然やり甲斐が出てくるぜ!」

「では、頼んだぞ」

「こちらこそ、頼むぜ俺の大好きなAtena!」

 言った途端、トーニは一目散にヘリの方に走って行った。

 元気に走る後姿が、子供みたいで可愛い。

 少し胸がポカポカして熱く感じるのは、太陽の照らされているだけではない。

 こんな非常事態だと言うのに、まったく俺ときたら面と向かって好きと言ってくれたトーニの言葉に浮かれている。

 “好きな女の盾となる”

 思い出してしまうと、更に頬までも火照る。

「まったく、エマに感化され過ぎ!」

 珍しく、頭の中で呟いたつもりのセリフが言葉として出てしまう。

「はあ……」

 なんだか漏れてしまった白い溜息まで、ほのかにピンク色掛かって見えてしまい、慌てて手で掻き消す。

 こんなことではいけないと、自分で自分の頬を打って気合を入れなおした。


 早ければ昼前にはここまで上がって来ると睨んでいたのに当てが外れ、ここに来てもう3時間も経つが敵はまだ登って来る気配もない。

 決戦を遅らせることで、こちらの精神的な持久力を奪う作戦に違いない。

 さすがミランが居るだけの事はある。

 俺は、崖を降りてヘリの所に向かった。

 トーニにその事を伝えなければ、視界の悪いヘリの中で神経を集中していると肝心な時が来る前に精神的に参らされてしまう。

「トーニ、俺だ!開けるぞ」

 ドアを開けると、既に死んだように寝転がっているトーニが居た。

 ”しまった!夜中のうちに誰か登って来て待ち伏せていたのか?!”

 直ぐに拳銃を抜き辺りを警戒する。

 ”静かだ、寝息しか聞こえない……寝息??”

「おいっ!トーニ!!」

 慌てて肩を揺らすと、虚ろに目を開けたトーニの腕が俺の腰に巻き付いてきた。

「ナトー。俺の可愛いナトー……っ!?えっ、え~~~っっっ!!!」

 目を覚ましたトーニが驚き、叫ぶ。

「なんで寝ていた?んっ?」

「いっ、いや。ほら、こんなヘリの中からいつ来るか分からない敵を見張っていると、精神的に参っちまうだろう?」

「だからって、寝ていたら、再び目覚める前に死んでしまうぞ!」

「だからよ」

「だから?」

「敵に来たことを教えてもらおうと思って」

 トーニはニコッと夏の海水浴場で見かける子供のように爽やかな顔で笑うと、外を見せてくれた。

 キャビンの外に出て驚いたのが、その景色が様変わりしていたこと。

 小石が散らばっているだけの平坦だった土地には、不規則に置き石が施されていて、所々に何やら看板らしい物まで掲げられてあった。

「なんの看板だ?」

「読んでみな」

 看板には英語で”Beware of minefields!(地雷原注意!)”と書かれてある。

「地雷って、どこで手に入れた?」

「手に入れちゃいねえ」

「ハッタリか!」

「そうよ、なにせ今回俺たちはザリバンの手先。国際法で禁止されていようが、そして地雷など持って無かろうが、十分にハッタリとして通用するぜ」

 たしかに地雷や仕掛け爆弾は、近代的装備のないザリバンでは常套手段。

 誰もが、そのことを知っているから抑止力にはなるだろう。

「この石は?」

「地雷を仕掛けて、戻ってくるときは道が居るだろう?さもないと自分の仕掛けた爆弾にヤラレちまう」

「芸が細かいな」

「他にもあるぜ」

「他にも?」

「ああ、振り返ってみな」

 言われるまま振り向いて、思わず笑いそうになった。

 それは墜落したヘリに書かれた落書き。

 ”Welcome to hell(ようこそ地獄へ)”と書かれた隣にはターゲットマークが書いてあり”Win a special prize!(的に当たれば特別賞!)”

 他にも、残ったヘリのメインローターに幾つもの札がワイヤーで吊るされていたりして、まるでお祭りの射的場。

 なるほど、半分遊び気分のサバゲ―オタク共の心を揺さぶる良いアイディアだ。

「どうして、こんなものを作った?」

「だってよぉ、いつ来るか分からねえ敵をジッと見張っていたんじゃ、戦う前にこっちの神経が参っちまう」

「だから寝ていたの?」

「そう。これを見りゃあ、敵から勝手に来たことを知らせてくれるだろ」

「もし、敵が騙されずに近づいてきたらどうするつもりだ」

「そんときゃ、ナトーが撃って知らせてくれるだろ」

 俺が妙に色気づいて悶々としている間に、こんな仕掛けをしていたなんて正直に驚いた。

 ”天才か、こいつは……”

「そうそう、来たついでにチョット手伝ってくれねえか。お宝をバラ撒いておきたいんだ」

「いいよ」 

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