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【Departure, Sanada Maru!①(出陣、真田丸!)】

「では、行って来る」

「じゃぁ~な~、たまには遊びに来いよ」

 次の日の朝、トーニと俺は墜としたヘリの所へ向かった。

 出掛けにヤザとサオリからプレゼントを貰った。

 ヤザから貰ったのはL115A3。本当はより強力なSVLK-14Sを持って行くように言われたのだが、断った。理由は地形。ヘリからは勾配の都合で600m程で視界が途切れるから、狙撃銃を使う場面は早々来ない。

 崖の上からだと遠くまで見渡す事が出来から、ヤザははじめSVLK-14Sを俺に渡そうとした。

 しかし俺はそれを断った。

 確かに最新式の長距離狙撃銃を持ては、敵の射程県外から敵を倒すことは容易いだろう。

 しかしフェアーじゃない。

 敵の殆どは軍人でもなければ犯罪者でもない。

 その人たちを処刑する権利は俺には無い。

 しかもこのSVLK-14Sという狙撃銃は全長1430㎜重量10㎏と、アメリカのM82に次ぐヘビー級。

 こんな代物を狭い岩場で使っていると、直ぐに体力を奪われてしまう。

 だから使いやすいL115A3を予備として借りた。

 こっちは全長1230㎜重量6.6㎏と使いやす。

 自信過剰ではないが、俺の腕ならL115A3でも充分M82と対等に戦う事は出来る。

 サオリが、くれたのは旗だ。

 白い汚れた反切れのシーツに描かれた模様は、薄こげ茶色に染まった血の六文銭。

 サオリがアサムの傷の処置をしていたところ、アサムが、ナトーは誰が止めたとしても必ずここを離れて外で戦うはずだからと、その時に敵を惑わす旗があった方が良いのではないかと提案したそうだ。

 そこでデザインはサオリが考えた。

 薄こげ茶色に染まった血の六文銭は、全てアサムの怪我や褥瘡じゃくそうの処置をしたときに付着したもの。

 この六文銭の旗印は、1614年大坂冬の陣で敵方の大将、徳川家康に「真田に勝るつわものなし」と言わしめた『真田丸』に掲げられた真田幸村の旗印。

 真田幸村は、この真田丸に僅かな手勢で立て篭もり、徳川側の大軍を何度も蹴散らした縁起のいい旗印だ。

「朝日が赤いな。まるで子供が書く絵みてぇだな」

「Red Sun」

「Red Sunか、ナトーの好きな日本の旗印だな」

「ああ」

 しばらく一緒に歩いていたが、とうとう来る所まで来てしまった。

 昨日俺が墜落したヘリを最初に確認した所。

「おお、これが俺たちの出城“真田丸”か!身が引き締まるじゃねえか!」

「トーニは、ここで俺の援護を頼む」

「いいぜ。見渡す限り敵は居そうにねえが、さすがに用心深いな。いいぜ、先に降りな。俺はナトーがヘリに着いてから降りるから。そんときゃあ援護を頼むぜ!」

「――いや、トーニ。お前は来ない」

「よせやいっ、俺が来なけりゃナトー、お前1人じゃねか」

「ヘリには俺1人で入る」

 言いにくかった言葉を出してしまうと、予想通りトーニは慌てて俺の前に周り、止めようとする。

「馬鹿言ってんじゃねえぜ、ナトーお前はどこまで1人を貫くつもりなんだ。初陣のリビアでも敵のアジトに1人で乗り込んで情報収集をして、港の倉庫では1番難しい役を1人で請け負たと聞いている。コンゴの時だってそうだろう?一緒にブラームを連れて来たとはいえ、奴には敵から離れた場所で働かせて、俺が監禁されていたテントにはナトー1人で乗り込んできやがった。ザリバンとの闘いじゃあ基地から抜け出したアサムを1人で追いかけてしまって、その後でスパイ活動を疑われもしただろう」

「分っている。だが、二手に分かれる事は最初から決めていたし、この作戦上仕方がない。トーニの好きなサッカーでもフォワードだけでは試合にならないだろう?必ずディフェンダーが必要になる」

「いいや、違う。ナトーお前は嘘をついている。確かにヘリという狭い空間の中に居ては視界も限られてくる。敵がその死角をついて回り込んで来ようとした場合に、気が付きにくい。背後から近づく敵を、いち早く見つけて倒す……いや、敵を背後に回り込ませない様にするには、ナトーの言う通り誰かがこの見晴らしのいい場所で警戒しておく必要がある」

「そこまで分かっているのなら……」

「だがな、ここで警戒に当たるのは俺じゃあねえ。ナトー、お前自身だ。回り込もうとする敵は丸見えだから、初めは近い距離から来ようとする。だが仲間が撃たれれば話は違ってくる。より大きな弧を描いて、遠巻きに来るだろう。撃ち漏らせばヘリに居る奴の護衛どころか、テメーの背後も脅かされる。だから、ここは俺が居るべき所じゃねえ。狙撃の腕が悪ぃからな。って、大の大人に情けねえことを言わせるんじゃねえ!」

「でも……」

「分かっているぜ。もし何かあった時、ヘリからは逃げられねえが、ここからだとまだ逃げることが出来るって言いてえんだろ。逃げてエマやアサムたちと合流して守ってくれと」

「……」

「だが、言っちゃあなんだが、俺がここに来た訳は、いや、ここじゃなくても、いつも戦場に出るたびに思っていることは一つだ」

 トーニはいきなり俺の肩を掴み、俺の体を引き寄せる。

「俺が守りてえのは、ナトー、お……」

 そこまで言うとトーニが声を止めて、手で”少し待つよう”に合図して近くにあった20㎝程の高さの岩の上に乗った。

 そうしてもう一度俺を引き寄せる。

 さっきの続きを言うつもりだ。

 場所を変えたのは、おそらくトーニの言葉に感動した俺が抱き着いたとき、二人の身長差から俺に覆い被されるのが嫌だったから。

 俺の身長は176㎝、トーニは170㎝。

 だから自分だけ20㎝高い岩の上に乗れば、感動した俺が涙を流す場所はトーニの頭の上ではなく、胸の中と言う分けだ。

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