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【The main unit the approaching enemy.②(迫りくる敵の本隊)】

 トーニのおかげでヘリを堕とすことに成功し、これで敵の士気は落ちただろう。

 だけど、それで敵の攻撃を防ぐ事が出来る決め手とならない事は、初めから分かっている。

 あわよくば墜ちたヘリにミランが乗っていれば、逃がさずに拘束して攻撃を中止させるように交渉も出来たが、ミランも馬鹿じゃないからかその可能性を考えて乗っては居なかった。

「で、これから、どうする?」

「墜落したヘリを出城に使う」

「出城って、まさかそこで戦うつもりじゃないでしょうね」

「その、まさかだ。俺とトーニの2人で敵を引き付ける」

「無茶しないで!シモヘイヘになるつもりかも知れないけれど、それじゃあ敵に囲まれてシュガート一とゴードンになってしまうわよ」

 エマの言うシュガート一とゴードンと言うのは、1993年10月3日、ソマリアでアメリカ軍とアイディード将軍の率いるソマリア民兵組織の間で起こったモガディシュの戦闘のこと。

 この戦闘で敵のど真ん中に墜落したMH-60ブラックホークの搭乗員を救うためデルタフォースの狙撃員だったランディ・シュガート一等軍曹とゲーリー・ゴードン曹長がヘリから地上に降りて戦い、そして死んだ。

 いくら精鋭のデルタフォース、その中でも優秀な狙撃員と言えど、大勢に周囲を囲まれた状態では敵うわけがない。

 ただ、俺たちはシュガートとゴードンとは条件が違う。

 彼らは怪我をした搭乗員を置き去りにして移動することは出来なかったが、俺たちはいざとなれば移動することも出来る。

 それに俺たちのアジトが未だどこに有るか分からない以上、墜落したヘリを追い越して俺たちより上に行く奴はそうそう居ないはず。

 爆発音は聞こえただろうが、まさかヘリを相手にグレネード弾をぶっ放そうと思う阿呆は居ないはずだから、山の陰に隠れて音しか聞こえていない奴らには直ぐ近くにアジトが在り、そこからRPGの攻撃でヘリは堕とされたのだと思うだろう。

 近くにアジトが在り、RPGもある。

 しかもグリムリーパーと呼ばれた狙撃手も居ると思えば、常に正面を盾にして守らなければならないという心理が働くだろうから、ナカナカ側面にも回り込み難い。

 更にヘリは墜落しただけで爆発をしていない事も大きい。

 航空燃料がタップリ残った状態のヘリに向かっての攻撃は、いつ爆発するか分からないと言う恐怖心も出てくるので、ある程度距離を開けた攻撃となるだろう。

 そうなれば、たった二人とは言え実弾による射撃訓練を毎日欠かさず行っている兵隊と、たまに射撃場に通う程度の民間人との差は顕著に表れる。

 だから無謀でも何でもない。

 その事を説明しようと思った時に急にヤザが、ヌッと立ち上がった。

「その役目は俺がやる」

「ヤザ……」

「元々、この捕虜にした小娘に唆されて、一旦は死を決意したこの身。今更命など惜しくはない。تَكْبِير」

 ヤザの死を覚悟したものだけが持つ言葉は、まるで黒澤映画に出てくるミフネのように周囲の何物の反論も許さない程の威厳と迫力それに説得力があり、行かせられないと思っていた俺でさえ反論を躊躇う程だった。

 皆が静まり返る。

 静寂という冷たい鉄のカーテンを引き裂く様に、切迫した甲高い声が響く。

「私も!」

 声の出所に一瞬戸惑う程、意外だった。

「レイラ……」

 皆が立ち上がったレイラを見上げた。

「私も、リビア方面での作戦に失敗して、書類上だけど、一旦この世から抹消された身の上。今更死など恐れてはいないわ。تَكْبِير」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。この作戦は一見危うそうに思えるが、引き際さえ間違えなければ、皆が思うほど深刻な作戦ではない。それにヤザたちを守りに来たのは俺たちの方だ。守られるべき人間が自らリスクを冒してどうする? レイラも一時的な感情に流されてはいけない」

 俺の言葉にヤザは直ぐに座ろうとしたが、レイラは俺を睨んでいた。

 “何故?”

「一時的な感情じゃないわ!」

「えっ!?」

「それだけよ」

 言い終わると、俯き加減にレイラが座る。

 俺はレイラから目を離し、ヤザの顔を見る。

 俺の視線に気が付いたヤザも俺の顔を見る。

 顔が少し赤い。

 ヤザは目が合った瞬間に、マズいと思ったのか目を背けた。

 “なるほど……そういうことか”

 俺がヤザから目を離さないでいると、ほとぼりが冷めた頃かと思ったのか、ヤザは横を向いたまま目だけを俺に向けた。

 再び目があう。

 だが一瞬にして、ヤザの眼は川の中を泳ぐ魚に石を放り込んだ時の様に、一瞬で居なくなった。

「さあ、それじゃあ聞かせてもらおうか、その戦略を!こちらとしても籠っているだけではなく何か手を貸せることがあるかも知れん!」

 またしても黒澤映画に出てくる世界のミフネ調。

 でも、照れているのが、丸分かり。

 男性って、いつまで経っても子供みたいなところが残っていて可愛い。

 でも今の一件で、ヤザの好みのタイプが、高学歴美人だと言う事が分かった。

 まあ、ハイファを亡くしてもう15年……娘の心配をするよりも、自分の幸せもチャンと考えなさい。

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