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【The main unit the approaching enemy.①(迫りくる敵の本隊)】

「しかし、なんだな……」

「なんだとは?」

「爽やかと言やあ爽やかでいいが、あの大学生、まるで遊びじゃねえか」

「他の奴らも大体そうなんじゃないかな」

「ちっ!ふざけるなって言うんだよ。何がサバゲ―会ではチョットは名が知れているだよ。本物の銃を持ったまま外に出るって事の意味が全く分かっていねえ!」

「羨ましいのか?」

「だっ、誰がだよ!羨ましくなんてあるものか……」

 そう言ったきり、トーニは何も喋らなくなった。

 羨ましいに違いない。

 軍隊に入る様な奴らの殆どは、国のためとか正義感が強いという奴よりも、憧れで入隊する奴が多い。

 飛行機に憧れてパイロットや整備士に。

 海や艦船に憧れて海軍に。

 陸軍に入る奴らは、戦車や特殊車両への憧れや、銃や実弾射撃への憧れ、それに戦争ごっこ、つまりサバゲ―をもっと本格的にやってみたいという憧れを持って入って来る。

 陸海空どの部隊に入ったとしても、待ち受けているのは憧れなど忘れてしまう程の厳しい訓練の毎日。

 実戦の方がまだマシだと思えるくらい平穏な毎日は飽きるほど訓練が繰り返され、パイロットや整備士はスクランブル発進迄の時間をコンマ数秒刻みで縮め、艦艇乗務員は目を瞑ってでも狭い通路を走れるようになり、配管のバルブを開けられるようになる。

 戦車兵はどんな状況でも高度な火器管制システムやC4Iシステムを使いこなせるようになり、一見サバゲ―の延長線上にいると思われる歩兵にしてもC4Iシステムや電子化が進んだ各種ミサイル兵器の扱いは勿論の事、協力体制を敷く各種部隊や兵器などの特性も理解して行く。

 俺がトーニに羨ましいかと聞いたのは、屹度彼自身がサバゲ―の延長線で入隊した雰囲気を持っていたから。

 今でもこうして歩きながら目を瞑ると、ミッションを終えた仲間たちがトーニの用意したキャンプに集まり、ワイワイ騒ぎながらワインを片手にバーベキューを楽しんでいる光景が目に浮かぶ。

 輪の中心には、やっぱりコイツがいて、ワイングラスに入ったモンテプルチアーノの話をして皆を笑わせている。

 フフ。

 考えていて、思わず笑いが零れてしまった。

 “あれっ、それにしてもトーニ奴、やけにおとなしい……?”

 普段なら一早く俺の変な思い出し笑いに“気持ち悪ぃ!”と騒ぎ立てるはずなのに。

 “まあ、たまには、そういう時があってもいいか”

 深く考えないまま、サバゲ―の事を考えていた。

 ハンスはサバゲ―でもやっぱりニヒルで頼りになる隊長だし、ニルスはここでもパソコンを広げて皆の得点の集計係をしている。

 フランソワはターミネーターからコマンドーに様変わり。

 モンタナは勝手に軍曹の肩章を付けていると思ったら、ブラームも伍長の肩章に付け替えていた。

 スッカリ出来てしまったエマに絡まれるハバロフ。

 その酔って開かれた胸元が気になってしょうがないジェイソンとボッシュ。

 テントに置いたクーラーBOXの中から大量に作ったシーザーサラダを持ち出して、一人一人の皿に注ぎ分ける俺。

 誰に狙われるわけでもなく、皆が心の底から寛いでいる。


「楽しそうね。なんかあった?」

 裏の出入り口にエマが居た。

 俺の帰りに会わせて、お出迎えをするためにワザワザ見張りを替わってくれたのだろう。

「何にもないよ」

「ヘリはチャンと片付けた様ね、さすがだわ」

「……」

 いつもなら、ここで威勢よく威張り出すはずのトーニが、やけにおとなしい。

 “さっきから、どうした……?”

 振り向くと、何故かいつもと違って神妙に俯いているトーニ。

 心なしか顔が少しだけ赤い。

「それにしても仲が良いのね、手なんか繋いじゃって。まるで恋人同士がお散歩から帰って来たみたい」

 “手をつなぐ?!”

 手元を見ると、たしかにエマが言ったように、俺の手とトーニの手は握られていた。

「ト、トーニ!おまえ何を!?」

 慌てて、手を振り解く俺。

「なっ、何をするって、繋いで来たのはお前の方じゃないか!」

「うっ、嘘だ!」

「嘘じゃねぇ!狭い岩場を並んで歩いていて、何度か手が当たっているうちに急にそっちから……」

「嘘だ!嘘、嘘!」

「えぇーっ……。そう言われると俺も何だか自身が持てなくなってきた。――アッ、そ、そうか、俺が岩場で転びそうになった時、慌ててナトーの手を掴んじまって……ほら、ヘリを相手に過酷な戦いだっただろ。それでお互いに神経が参っちまっていたんだろうな。いわゆる疲れてヘトヘトになっていたから。そ、それで離すのさえ忘れていた。イヤ済まねえナトー」

 トーニが転びそうになったのなんか知らない。

 屹度、トーニの言う通り、何度か手が当たっているうちに俺がつい掴んでしまったのが本当の事。

 トーニは、俺のために嘘を言った。

「まあまあ、良いじゃないの。“仲良きことは美しきかな”って言うじゃない」

「だから、そんなんじゃねえって言ってんだろうが!俺がグレネード弾をヘリに当てるまで、ナトーは敵のスナイパーを引き付けるために、奴を仕留めもせず的になって必死に戦っていたんだぜ。しかも俺を守るために裏側に降ろされた2人の大学生アルバイトも殺さずに退治してくれたし。だから俺もヘリを堕とすことが出来た。どれだけ頑張ったと思っているんだ、茶化すんじゃねぇ!」

「はいはい。ご苦労様」

「ハイは1回!ご苦労様は上から目線で労ったことにならねえ!」

 トーニは繋いでいた手を離した途端、いつもの威勢だけは良いトーニに戻り、一人でドカドカと洞窟の中に入って行った。

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