【Confrontation with a helicopter.①(ヘリとの対決)】
「さて、そろそろ行くぞ」
頭にスカーフを巻き、腰を上げる。
スカーフを巻いたのはザリバン兵に見せるための偽装。
「了解!」
トーニがグレネード弾の詰まったバッグを、たすきに掛ける。
いつもなら“まだヘリは来ていねえぜ……”→“飛んで来てから出かけたのでは、何のためにワザワザ出向いてまでヘリを堕とすのか意味が無くなるだろう”→“そうか!ヘリを堕とすのは、この場所を特定されないためだったよな”と、言う会話になってから準備が始まる。
ところが、トーニは俺がサオリと話をしているうちに、既に準備まで済ませている。
頼もしい。
やるときは、やれる男だ。
「気を付けてね」
「ああ」
サオリの言葉を後にして、出入り口に向かう。
俺たちが出るのは、向こうの山からは見えない方の出口。
そこにはヤザが居た。
ヤザは俺の顔を見上げて拳を突き出してきたので、俺もそれに応えて拳を合わせる。
お互いに言葉は掛けない。
敵は俺の正体が“グリムリーパー”だと言う事を知っている。
だからトーニと2人居るのを見つけて離れ離れになった場合、標的を俺一本に絞ってくるはず。
ミランが乗っているかどうかは分からないけれど、もう俺がここに居る事は知っているのだから、ヘリには必ず狙撃手を乗せているに違いない。
空からの攻撃に、隠れる場所の少ない岩場。
送り出す側からすれば、慰める言葉などどれも薄っぺらい物だと言う事をヤザは知っている。
外に出たあと、後ろでパチンと言う音が聞こえた。
何だろうと思い振り向くと、ヤザが重装備のトーニの尻を笑顔で叩いていた。
「よう大将、頑張れよ!」
「おう。俺が居るからには、可愛い娘さんにこれっぽちも怪我はさせねえ」
トーニの返事に笑っていたヤザの顔が引き締まり「頼んだぞ」と言って送り出すところだった。
ゆっくりと山を下りる。
全ての岩の位置や形を覚えるように、注意深く確認しながら歩く。
所々、隠れるのに都合のいい場所や、隠れ家をにおわせる地形を見つけてはトーニにその場所を教える。
場所にはアルファベッドで一つ一つ名前を付けた。
山を下りはじめて20分程経った頃、遠くからヘリの音が聞こえて来た。
「トーニ!I-3の岩陰に隠れろ!俺はH-1に隠れるが、俺が撃てと合図するまでは顔を出すな」
「了解!」
重い装備を纏っているくせに、軽快に山を駆け上るトーニ。
俺の隠れるH-1の岩は大きくて、いかにも奥がありそう。
つまり、隠れ家がありそうに見える。
岩場を、のこのこ歩いていると、急に音が大きくなり山影からヘリが現れた。
俺は慌てて肩に掛けていた銃を取り連射する。
ヘリの爆音に混じって、カンカンと小銃弾を跳ね返す音が聞こえ、敵も慌てて上昇を始めた。
H-1の岩に走る。
のこのこ歩いていたのも、慌てて撃ったのも、全て筋書き通り。
岩に隠れてから頭に巻いていたスカーフを取り、小銃にスコープを装着する。
スコープを着けたのは敵に発見されやすくするため。
トーニの様子を窺うと、俺の指示通り頭を低くして小さくなりながらも俺を見ていた。
“いいぞトーニ、その調子だ”
再び爆音がしてヘリが現れた。
キャビンのドアが開けられ、そこから勇敢に身を乗り出した男が軽機関銃を乱射し始めたお決まりの攻撃。
男が落下防止用のベルトを装着している事と、防弾チョッキを装着している事を確認して、右胸の上に一発お見舞いしてやる。
弾の当たった反動で男は銃を地上に落とし、キャビンの中に消えた。
貫通したとしても命には影響ないし、貫通しなくても鎖骨は脱臼して肩を上げる事が出来ない程痛いだろう。
ヘリはまた遠ざかる。
移動できる者の強みは、不利な状況では離れ、常に自分にとって有利な条件で戦える事。
遠ざかるヘリの音に、耳を澄ます。
しばらくすると、出力が落ちて一定の回転数になったあと、またフルスロットルになった。
今回は、ただ山の陰に隠れたのではなく、山の裏側の少し高い位置に何者かを降ろしたに違いない。
“ナカナカやる”
戻って来たヘリのキャビンは少しだけ隙間が空いた状態になっていた。
“狙撃手か……”
「トーニ!やれ!」
狙撃手は視野が狭い。
ましてキャビンのドアの隙間から射撃したのでは、尚更。
ヘリは狙撃手が俺を狙いやすい様に、俺に横腹を向け、ほぼホバリング状態。
その背後からトーニがグレネード弾を打ち始めても、あいつ等は自分たちのエンジン音が煩過ぎてナカナカ気付くことは出来ない。
しかし、そうそう敵も馬鹿じゃないから、いずれ地上からの砂埃などで気が付く。
気付かれれば、もう当てる事は困難になる。




