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【Liz's escape②】

 タタタタタ!

 エマと敵の様子を見ていたら、急に銃声が響いた。

 しかも、こちら側で。

「敵!?」

「いや、敵の装備はM-16。あの音はAK-47、味方の銃だ!」

「一体誰なの!?」

 リズに間違いない。

 だが、エマに聞かれ、答える間に既に全力で走っていた。

 後からエマも追いかけて来た。

 洞窟から出る間際に外を見ると、丁度飛び出したヤザがリズを取り押さえた所だった。

 “敵は?!”

 向こうの山に目を向けると何人かが、こっちへ向けて発砲していた。

 “見つかった”

 見つかってはもう仕方が無いので、抵抗するリズに手を焼いているヤザの所まで応援に行った。

「やってくれたな、リズ。トーニは」

「彼、口は悪いけれど女性には優しい意外と紳士なのね。ナトちゃんが気に入るのも、よく分かったわ」

「いい奴だからな」

 そう言って後ろ向きになり、そのままターンして裏拳をお見舞いすると、今まで抵抗していたリズの体がグッタリと項垂れヤザの腕に包み込まれた。

「その紳士を騙した罰だ!」

 人を殴ったりけったりするとき、感情的になることは決してなかったのに、この時は感情が高ぶってしまった。

 気絶したリズを元居た場所まで連れて行くと、サオリに傷の手当てを受けているトーニが居た。

 頬を蹴られた時に切れたのかサオリに絆創膏を貼って貰いながら、そのサオリの顔をトローンとした目を横にして見ていたが、俺に気が付いた途端ハッと我に返った様に慌てた。

 “フッ、別に嫉妬なんかするものか……”

「すっ、すまねえ!!!!!!」

 俺に気が付くなりトーニは、いきなり地面に平伏せて大声を出して謝る。

 その姿は、いわゆる日本の“土下座”

 どこで覚えたのか、それとも野生の勘なのか、額を地面に擦りつけると言う最上級の姿勢。

「止めろトーニ」

 まだエマとヤザは、ここに来ていなかった。

 居るのはサオリとトーニと俺の3人だけ。

 俺は土下座をしているトーニに慌てて近付くと、その伏せた体を起こす。

「失敗は誰にでもある。大切なのは一度した失敗を繰り返さない事。捕虜の要求に応えてあげる優しさも必要だが、その緊急性も考えなければならない」

「す、すまねえ。こんな時に」

「大丈夫。何とでもなる」

 見た訳でも説明された訳でもないが、リズが素足だった事。

 地面にトーニのナイフが落ちていた事から推察すると、リズが靴を脱がせて欲しいと頼んだことは容易に分かる。

 紐で縛られている軍靴を脱がせるためには、俯きにならなければ脱がせない。

 おそらくリズは裸足になった方の脚を伸ばして、トーニの腰に吊るしてあったナイフを足の指を使って奪ったのだろう。

 後は、俯せに無防備になっているトーニの腹か金的を蹴り上げてノックアウトさせれば事が足りる。

 更に、声を上げられると困るから、仕上げに頭に一発入れて気絶させればいい。

 トーニの失敗は、靴を脱がせてあげた行為そのものではない。

 むしろ、その優しさは称賛してあげても良いくらいだ。

 だけど、状況を考えなかった事が、いけなかった。

 1対1の場面で、それをした事と、素直に要求をのんでしまった事。

 捕らえられた者は、必ず逃げる機会を窺っている。

 だから逃げ出そうと考えている捕虜の要求は、それを実行できるタイミングに出されると疑っても良い。

 靴を脱がすと言う要求に応えるのは、見張りを交代するまで待つべきだった。

「このヤロー、さっさと歩け!」

「ナトちゃん駄目、奴らは山を下り始めたわ」

 リズを乱暴に引きずりながらヤザがやって来た。

 その後ろにはエマも。

 夜の交代のために睡眠をとっていたレイラも「何があったの!?」と、出て来た。

「チョッとした隙に、リズが逃げ出して、奴らにこの場所を伝えた」

「まあ……」

 驚くレイラ。

 集まった者全員の顔に不安の影が差す。

「大丈夫。逃げ出そうとした捕虜は再び確保したし、リズがトーニを傷つけなかった事で俺たちの戦力は落ちてはいない」

 俺的にはトーニに怪我がなかった事は大きなことだと思っていたが、どうやらこれでは皆の不安は解消されないらしく暗い顔のままで、少しトーニに対する認識の違いに俺の方が驚かされた。

 “何故!?”

 まだ座っているトーニの顔を振り返ると、そこにはいつもと違ってキリッとした精悍で頼もしい顔が俺を見上げていた。

 “どうした皆、このやる気満々のトーニの顔を見ても何も思わないのか……?”

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