【SVLK-14S③】
サオリには怒られたが、作戦は旨く行った。
4人のうちの1人が上手く携帯で連絡してくれたことにより、敵は戦力を隣の山に集中し始めた。
これで一旦時間は稼ぐことは出来たが、それも時間の問題。
山頂まで行って俺たちが居ないことが分かれば、次に疑われるのはこの尾根に間違いない。
ザリバンの救援を頼みに誰か出すにしても、必ずどこかに敵が待ち伏せているに違いないから上手くいくとは思えない。
トーニが有りっ丈の銃弾を持って上がってくれたから、比較的銃弾に余裕はあるが、それだけでここを守れるとは到底思えない。
俺がザリバンの仲間を呼びに行くか?
いや、誰が行っても左程変わりはない。
直ぐに周りを囲まれて身動きが取れなくなるか、バイクで走っているところを撃たれるかのどちらか。
たとえ先に進めたとしても、それは他の者に比べて少しだけ前に進めたに過ぎず、結局目的は果たせずに終わってしまう。
残された望みは、敵がこの山に攻撃を絞った時に、携帯で救援を要請する事だけ。
しかし、俺がミランなら――。
「あれっ、これ、壊れたのか???」
隣で携帯ゲームをしていたトーニが携帯を叩いていた。
覗いて見ると、通信状態を示すアンテナ表示が消えている。
そうなる。
的が絞られた以上、無駄に連絡は取らせない。
今は俺たちの仕掛けたトリックに引っかかり、違う山に狙いを付けているが、もう通信状態が復活する事は無いだろう。
と、なると、いま頼れるのは日本に居るガモーだけ。
そのガモーの元に向かっていると思われるP子は、あと10日後に日本に着く。
10日間……。
持てるのか?
「アサムは?」
「経過はいいよ、これならあと1週間もすれば、ここから出せるわ」
「1週間……」
「なに?」
「いや」
「いいよ、アサムなら今、薬で眠っているから」
あと1週間後、俺たちはどこに居るのだろう。
神の下なのかも知れない。
でも、そんな事をサオリに言って何になる?
未来は、未知だ。
未知な事を議論しても、どうにもならない。
確かなのは、医師であるサオリの言葉。
1週間経てばアサムを動かす事が出来ると言う事。
「敵は今、隣の尾根に張り付いているが、それで稼げる時間は長くはない」
「ありがとう。ナトちゃんのおかげよ。まさか時間差攻撃で惑わされたなんて、ミランも思っても居ないでしょうね」
「だが、その次は俺たちの番だ。2日掛けて登り、居ないと分かれば慌てて降りて、今度はこの尾根に上って来る」
「合計何日?」
「――4日位だろう」
「6日よ。全員が、ナトちゃんみたいな屈強な体力の持ち主じゃないのよ。睡眠もとらなければならないし休憩だって必要よ。だから2日掛かって登ったら、その日は頂上付近で夜を明かして下に降りてきてから、また2日掛けて上がって来る。尾根が繋がっていなかったのは私たちにとってラッキーだったわね」
「6日か」
「丸1日、持ちこたえる事は出来る?」
今、思いつく限りでは無理としか言いようがない。
四方を取り囲まれて、しかも敵にはヘリもある。
こっちの人数は動けないアサムを除けると10人しか居ないし、
ザリバン高原の戦いの様に、視界の利くトーチカなら敵も近付きにくいし、こちらも敵の攻撃してくる向きによって人員配置を即座に替える事が出来るが、ここは全く条件が違う。
周り中に散りばめられたゴツゴツとした岩は、敵兵に隠れる場所を提供している。
一見堅牢に見えるこの洞窟の隠れ家も、南から来る敵と対峙している状態では他の方角から来る敵の情報を個人レベルで把握することは困難なばかりか、他の者たちの武器や生命の状態を知る事もままならない。
つまり10人全員で戦った場合、四方向に配置した味方のうち誰かが戦列を離れてしまった場合でも、誰もそれに気が付かずカバーする事が出来ない。
激しい防戦の中で、開いてしまった入り口から敵兵が洞窟の中に雪崩れ込んで来た時に初めて俺たちは仲間の担当していた防御陣地に穴が開いたことを知る。
だが知った時には、もう手の打ちようも無いし、自分の命さえ守る事もままならないだろう。
つまり最低でも1人か2人は連絡員として、洞窟内を走り回らせる必要がある。
そうなると敵と向き合って直接戦えるのは8人。
四方の防御に分散させる必要があるので、1方向2人のペアになる。
生死の掛かった戦闘状態は、呼吸も心臓の鼓動も早くなるばかりか脳の活動も活発になり、著しく体力を奪われる。
たった5分の戦闘が、1時間もあったように長く感じられる事は良くある。
2人だと敵が攻撃を仕掛けてくる前から、発見するために体力を奪われてしまう。
その状態から戦闘に入るのだから1日なんてとても持ち堪える頃は出来ない。
せいぜい2時間持てば、良い方だろう……。