【SVLK-14S②】
昼前、早速低空で飛ぶヘリの音がした。
ヤザが慌てて見張りを引っ込めた。
大きな岩が重なり合って作られているこの周辺で洞窟が何所に有るかなんて探すのは極めて困難だが、敵が赤外線感知器を使っていた場合、体の一部分だけでも晒してしまえば簡単に見つかってしまう。
ヘリは長い時間辺りを飛んでいた。
当然、林道に隠してあった2台の車は見つかったに違いない。
バイクの方は、空から見つかる事も想定して、岩陰の中に押し込んでいるので大丈夫だっただろう。
おそらく捜索は林道の先に有る村から始まる。
次に、装備を整えて山の捜索。
敵の戦力がどのくらいか分からないが、おそらく幾つかの山に戦力を分散させることになるだろう。
どこかの部隊が俺たちを見つけた時点で、散らばった戦力を集める。
バイクが見つかれば、その日のうちに戦力はこの山へ集中されるが、見つからないように隠した自信はある。
見つかった場合、敵がここに辿り着くには明後日。
見つからなければ、もう少し時間が稼げる。
そう思っていた。
だが現実は甘くはなかった。
3時過ぎに再びヘリの音が聞こえた。
今度は、あちこち飛び回らずに、一定時間どこかに止まって去って行く。
岩の隙間から様子を見ていると、丁度向こうの山の山頂付近にある平らな場所に着陸して、武装した数人を降ろしている所だった。
なるほど、上からと下からの挟み撃ちで、俺たちの居場所を早く見つけようと言う事か。
考えたものだ。
「どうする?これじゃあ直ぐに見つかっちゃうわよ」
4人降ろしてヘリは去って行った。
次は、どこに降ろす?
この戦法なら、今日中に見つかってしまう。
だが、遅らせる手はある。
敵が一番に目を付けたのが、向こうの尾根だと言う事が、俺たちにとってはラッキーだった。
「トーニ、レイラ、エマ、それとヤザ、仲間を2人貸して銃の用意をしろ!ヤザ俺にL115A3を貸せ、ヤザもSVLK-14Sを使え」
「とうとう、狙撃手の出番だな」
ヤザは久し振りの親子タッグが嬉しそう。
「銃の用意って言っても、まさか向こうの尾根に降りた敵を討つんじゃないでしょうね」
「その、まさかだ」
「撃つと言っても優に3キロはあるわよ。こんな距離だと、いくらスコープがあるからって当てられるのはナトちゃんくらいなものよ」
「大丈夫、ここにあるAK-47とドラグノフの有効射程はせいぜい600~800程度だけど、それは真直ぐ飛ぶ距離だから、それを考えて当ててみろ」
「おいおい、俺様を忘れて貰っちゃ困るぜ。一発必中てえ訳にはいかないにしても、これでも毎日銃の練習はしているんだからな」
「フルオートでもいいぞ」
「なら簡単だ」
「いいか、硝煙が出ないように銃口を突き出させずに撃てよ。先ずはトーニとレイラから」
「OK!」
“タタタタタ”
皆一斉に3㎞離れた向こうの尾根に降りた4人に向かって射撃を始めた。
撃ち始めて5秒後、着弾した砂埃が4人の遥か彼方で上がる。
「後は単発に切り替えて、全員よく狙って撃て」
ヤザの肩を叩き、撃つように促し、俺もL115A3を構え、スコープ越しに狙う。
約10秒後、敵が銃声に気付き慌て始めた。
同時に、単発で狙い始めた事で、敵の周囲に砂ぼこりが集まり出す。
スコープを覗くと、1人が携帯電話で仲間に連絡を取っている。
“先ずは、こいつからだ”
“タン”
L115A3は、発射音も静かで反動も少なかった。
ナカナカいい。
でも、一発目は少し右に外した。
修正して二発目を放つ。
“タン”
撃って4秒後、銃弾は奴の右胸を捉えて倒した。
”バーンッ”
ヤザの使うSVLK-14Sの方は、L115A3に比べると発射音が大きい。
それでもM-82に比べれば、少しは静かか……。
敵は何所から撃たれているのか全く分からずに、ただ岩陰に隠れて動かない。
銃弾が届くまで4秒ほど時間が掛かるので、動かないで居てくれるのは好都合だ。
2人目は右の脇腹に、3人目は右肩と左肩に2発。
最後に残った4人目は岩陰から頭しか見えていない。
“撃つしかないか……”
観念してスコープを覗き照準を合わせていると、男の頭から血飛沫が飛んだ。
スコープから目を離すと、ヤザと目が合った。
「ヤザ……」
「殺したくない気持ちも分からなくはないが、確実に助かると言う保証がない以上、楽に死なせてやる方がいい。それがスナイパーの務めだ。……と、偉そうなことを言ってみたが7発目で、ようやく当てたのだがな」
ヤザは、そう言って俺の肩をポンと叩いて、元居た場所に戻って行った。
「結局、ナトーが3人、ヤザが1人。俺たちの働きは弾の無駄使いだったて訳か?なあレイラ」
「あら、そうでもないみたいよ」
「なんでよ?」
「3㎞先に銃弾が届くまでに掛かる時間は約4秒だけど、銃声が届くまでには10秒近く掛かるわ。だから最初に連射した弾は見当違いの所に飛んだけれど、そのあとで狙いを修正して単発で狙った銃弾は彼等の近くに砂ぼこりを上げたわ」
「それが、何だって言うんだ?」
「つまり、最初にレイラとトーニちゃんが撃った銃声が届く頃に、自分の近くで砂埃が上がったの。それを見て彼等は何と思うかしら?」
トーニの鈍い反応に、エマが業を煮やして言った。
「なるほど!直ぐ近くから撃たれたと勘違いさせたって事か!俺って天才?」
「いやそれは、チョッと、違う……」
「も~何!?この煙!怪我人が居るのよ!」
アサムの看病をしていたサオリが血相を変えて、やって来た。