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【Gift from the foothills①(麓からの贈り物)】

 アサムとポーカー大統領の間で、ナカナカ終戦宣言がなされないのは環境の整備が整っていないからなのだろう。

 お互いのトップ同士が声高らかに終戦を宣言したとしても、不満が残れば戦闘は続くだろうし火種自体が消えていないなら、一時的な終戦にしかならない。

 戦闘が終わるのは嬉しいが、テロ側の人たちはそれで食料を得ている。

 中には空腹を満たす目的のためだけにザリバンの戦闘員になっているものも居るくらいだ。

 それだけ、彼等は貧しい。

 終戦となり、職業と食料が一気に絶たれるかも知れないとう言う不安を抱えたままでは、彼等にとっての平和は訪れない。

 アサムに変わる誰か、ザリバンに変わる別の組織が、同じことを繰り返すだけの事だ。

 バイタルを測り終え、目を瞑ったアサムの体に優しく毛布を掛け、ヤザたちの居る所に戻る。

「おかえり。どうだった?」

「体温37度2分、血圧167の88、SPO₂は91です」

「だいぶ良くなってきたようね。と言うか、さすが驚異の回復力ね」

 ヤザが喜ぶだろうと思い、真っ先に報告したのに肝心のヤザは居なかった。

 俺の目の動きに気の付いたサオリが、直ぐにヤザは歩哨に言ったと教えてくれた。

 今や大幹部になったと言うのに、みんなと同じ場所に居て、みんなと同じものを食べ、みんなと同じように歩哨にも立つ。

 昔のヤザは、いつも仲間を持たずに俺と2人っきり。

 今思えばヤザは銃の腕を上げて来た俺が利用されるのを恐れて、またグリムリーパーとして多国籍軍から懸賞金の掛けられた俺の秘密を含めた全てを守るため、わざと群れから離れていたのだろう。

「最愛の娘に恨まれる事を覚悟したうえで、グリムリーパーと言う“お尋ね者”である事と、女の子である事を“秘密”として守り抜いたのね」

「女であることも?」

「そうよ、明日の命も知れない“ならず者”たちは、女と言う性別に年齢など関係ない。あら、ナトちゃんコンゴに行ってそう言う事件に遭遇しなかったの?」

「逃げられないように足首を切られてレイプされた白人女性には遭遇したが、子供がレイプされたかどうかは知らない」

 半分本当で、半分嘘。

 ハンターの白人女性がレイプられたのは、実際に死体を見たので知っていた。

 でも、あの小さな集落に住む一家の死体には目を背け、レイプなどなかった事にした。

 女性たちは全員に衣服の乱れがあり、小さな女の子さえ裸で、膣が開いたままの状態で撃たれていた。

 同性として、その事実を仲間に知られたくはなかった。

 だから俺は腐敗が始まった死体を率先して片付けた。

「不思議な物ね」

「なにが」

 サオリが頬杖をついたまま、横目で俺を見て笑っている。

「赤十字難民キャンプで初めて会った時は、自分の事を男だと思っていたナトちゃんが、今ではスッカリ女の子なんだもの」

 俺が赤十字で働くサオリとミランに助けられたのは、11歳か12歳の頃で、それまで俺は養父ヤザの教育宜しく、自分が男だとばかり思っていた。

 栄養状態も悪くて、今と違って胸もペチャンコ。

「ねえ、覚えてる?私が女の子だって言ったときに、どう答えたか」

「止めてくれ」

「ホントは、もう忘れてしまっているんでしょう?」

「まさか」

「じゃあ、言って見せて」

 サオリの目が悪戯っぽく輝いているのはいつも通りだが、捕らえたリズの眼も俺に興味を示している事が分かった。

 まあ、この程度の事で気分転換になってくれれば安い物だ。

「どこから言えば良い?」

「じゃあ、あの日と同じ様に私が言葉を投げるから、同じように投げ返してね。いい?」

「いいよ」

「もっと女の子らしくしなさい!」

「俺は女なんかじゃない」

「貴女は女の子よ。だって、ほら、おちんちん無いでしょ」

「それは、大人になったら生えてくるんだろ?」

「男の子はね、最初から付いているのよ」

 俺たちの会話を聞きながら、笑いを堪えていたリズが噴き出した。

「ナトちゃんって昔からハーフっぽかったのよ」

 サオリがリズに言うと。また直ぐに頑なな態度に戻ってしまい「バカみたい。もう12歳だったらチャンと胸だってあるでしょう」

「今のナトちゃんの胸を見ていると、そう思うでしょう?でも当時は本当にペッチャンコだったのよ。それはそれは可愛そうなくらいに」

「嘘」

 リズが顔を背けたまま言う。

「嘘ではないの。リゼッタさんが12歳の頃はもう胸も膨らんで来ていたと思うし、初潮もあったでしょう? ナトーたちテロ側の人たちは、1日1食ありつければ良いような暮らしなの。当然栄養状態が最悪だから皮下脂肪もつかなければ、初潮も来ない。戦争で畑は荒れ家畜もやられ、誰も彼も食べるものに困っていたのよ」

 サオリの言葉にリズは背中を向けたまま黙っていた。

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