【The enemy captain is Liz②(敵の隊長はリズ)】
縛ったリズをワンボックスカーの座席に乗せて、銃でパンクさせたフロントタイヤを、もう一台の同じ車から外して取り付けた。
残った2台の車のエンジンに銃で穴を開けて使えなくしてから、病院に救急車の手配を頼み、警察にも連絡をして、ついでに食料を奪って現場を去った。
「殺していないのか?」
「誰を?」
「みんなを」
「分からないが、なるべく急所を外すようには努力したつもりだ」
「そんな努力をして何になるの!思い上がりもいいとこよ。障害を負ってしまう者もでるのに」
「社会復帰は出来る。後ろ盾企業の傘下には、慈善団体も合っただろ。それとも職務遂行上に起きた怪我はPOCでは労働災害に当たらないのか?」
「知るものですか!」
リズはそのまま顔を背けて黙ってしまった。
静かにしてくれたのは有難い。
嫌な話は聞きたくないし、静かにしていてくれれば敵の気配にも気づきやすい。
峠を越える山道に入った所で、車を隠すのに都合のいい場所があったので、そこに車を突っ込んだ。
「ここがアサムの隠れて居る所なの?」
「……」
リズの問いには答えずに、逆にその口を塞ぐため猿轡を咬ました。
時間的には俺が攻撃を始めた時、直ぐに峠の向こう側に待機している仲間に知らせた場合、そろそろこの辺りで出くわす時間。
変な事をされては困るので一旦リズを後ろのシートに座らせて、更にその椅子から抜け出せないように括り付け、俺は用心のため車を降りて道路に近い雑木林に身を潜めた。
5分後、峠の曲道にライトの灯が動く。
車は2台。
何事もなく通り抜けてくれれば良いが……。
1台目の偽パトカーが通り抜け、2台目のワンボックスが来ようとしていた時、急に隠しておいた車からクラクションの音が鳴り出した。
断続的で規則正しいリズム。
何かの暗号なのか!?
リズがロープを解いたのか?
まさか……。
とりあえず急いでクラクションを鳴らすのを止めさせなければ!
走って車まで戻ってみると、リズは俺がそうしたように、後部座席に座ったまま。
なのにクラクションの音は続く。
“誰が、一体何のために!?”
用心しながら近づいている暇はない。
慌ててリモコンでロックを解除してドアを開けた途端、クラクションも止んだ。
誰かが隠れているのではないかと車内を見渡すが、リズ以外誰も居ない。
後ろでは、峠の道を走っていた車の止まる音が聞こえる。
“しまった!罠だ!!”
慌てて横に飛び跳ね、地面で一回転して体制を替え、後方に銃を向けた。
しかし、そこには誰も居ない。
“遠隔操作だ”
道に止まった奴らの車が再び動き出し、去って行く。
おそらく何人か降ろしたのだろう。
車を置かないのは、既に事件の知らせを聞いた、警察に見つからないため。
自分たちがそうしたように、峠の一本道に非常線を張れば、その先への逃亡ルートは簡単に防げる。
偽パトカーの方も屹度その先で人を降ろしたに違いない。
だとすると、森に囲まれたこの場所は3方向からの攻撃を受けることになり、地形的に不利。
早く移動しなければ。
遠隔でクラクションを鳴らせるのなら、場所の特定もGPSで出来ていると言っていいだろう。
だとすると、車で移動することは、敵に俺たちの隠れ家を教える事になる。
時間は掛かるが、歩くしかない。
兎に角、ここに居てはマズイ。
「出ろ!」
リズの縄を解こうとして言った時、涼し気なリズの目に気が付いて辺りを見渡した。
人の気配はしない。
断続的にクラクションが鳴っていたとしても、人の気配を見落とす俺ではない。
この闇の中、道もないこの森の中を近づいてくるとなれば、必ず枯草や枝を踏んでしまうはず。
その音が無いと言う事は、敵は全く動いていないか、あるいは敵そのものが居ないと言う事になる。
「リズ。お前一体何をした」
猿轡を解くと、リズは笑って言った。
「勉強熱心なナトちゃんでも、車の事は疎いようね」と。




