【Counterattack! Natow②(逆襲のナトー)】
ヤザは俺がここを出て行く目的を知っていた。
だから自分のドラグノフを俺に渡した。
拳銃の使えるのは近接戦闘。
1対多数では、圧倒的に不利だ。
だがドラグノフなら、離れた所から戦える。
狙撃戦ならたとえ1対50でも勝てる可能性はある。
何故なら、狙撃手の腕で勝負が決まるから。
隠してあったバイクの所迄行く。
P子の情報を基に、これから敵のアジトへと向かう。
麓の細い道に入る前に、直径3インチのパイプが転がっていたので拾った。
長さは1メートル。
まさに神が俺にくれた贈り物。
そこから1キロほど進み、人里から離れた廃工場が奴らのアジト。
フランス支部も廃工場だったが、どこまでも廃工場の好きな奴らだ。
オートバイを隠し、歩いて山を登る。
そこから敵が見えやすく、身を隠すのに都合のいい場所を探す。
できるだけ敵がサイドに回り込み難い場所を選らぶ。
少し探すと、丁度いい所にイヌツゲが生えている場所を見つけた。
だが体は隠しやすいが防御的には不利な場所だったので、身を隠せる程度の穴を掘り根元の隙間から敵の様子を窺う。
車は偽パトカーと、ワンボックスカーが2台の計3台。
距離は約350と言うところか。
ナイフで枝を切り、根元の隙間を埋め、そこにさっき見つけたパイプを通した。
レンズは付いていないから、望遠鏡にはならない。
これには違う用途がある。
先ず、敵の足を止める。
ドラグノフの銃の先端を軽くパイプの穴に通して、偽パトカーのフロントタイヤを撃ち抜いた。
次に、その隣に停めてあったワンボックスのフロントタイヤ。
更に、もう一台のフロントタイヤも。
夜の闇に銃声が3発響き、慌てるように敵が工場の電気を付けた。
“パン、パン、パン”
灯に映し出された陰に向かって3発撃ち、3人倒したところで敵はまた慌てて電気を消した。
“パン、パン”
様子を窺いに外に出て来た敵を更に2人倒した。
「GrimReaper!!」
敵が俺の名を叫ぶ声がした。
車の陰から腹ばいになった狙撃銃を構える男が見えた。
M82バレット。
隠れて居るつもりなのだろうが、銃身が長すぎて丸見え。
しかも、とんでもない方向を向いている。
ひょっとしたら、この狙撃手の斜め後ろに観測員も居るかも知れない。
“パン、パン”
狙撃手を倒し、観測員が居ると予想した場所にもう一発撃つと「ぎゃーっ!」という声が響いた。
やっと、その気になってくれたのか2人の男が建物の中から、闇雲に自動小銃を撃ちまくる。
だが、お前たちがアジトにしたのはゴツイコンクリート製の建物ではなく、壁の薄いプレハブ建築だから壁は何の防御にもなりはしない。
“パン、パン”
2発撃つと乱射する銃の音は直ぐに消えた。
戦える敵があと何人残っているのか分からないが、動ける奴は俺を血眼になって探しているに違いない。
普通なら夜の闇の中ではマズルフラッシュ(銃口からでる火花)がハッキリ見え、射手の場所が特定しやすい。
だが、俺はそう簡単には見つからない。
理由は簡単、この鉄パイプのおかげだ。
鉄パイプに銃口を突っ込んで撃つことにより、少しでも角度がズレればマズルフラッシュは見えることは無い。
唯一そのマズルフラッシュを見る事の出来るのは、俺の放った弾道上の真正面に居る者だけ。
もう、そうなれば本当に放たれた銃弾の光を見たのか、激しい痛みで目が眩んだのか分からないだろう。
もちろん、その状態で正確な方角を示せるほどの気丈さを持った奴は、そうそう居やしない。
窓から警察の帽子がチラチラと動いているのが見える。
窓枠に乗せられたライフルが、帽子に合わせて一緒に動く。
一応は俺を探して狙撃しようとしていると言う演出なのだろうが、人形浄瑠璃並みのリアル感も、引き込まれる程のストーリー性もない。
あるのは、他のストーリー。
視界の右側で何かが動いた。




