【Counterattack! Natow①(逆襲のナトー)】
「これで彼らが、積極的に逃げたザリバンを追わない訳が分かったわね」
「孤立させて、アサムが死ぬのを待っている」
「POCが偵察部隊を出さないのは、隠れ家を見つけて戦闘になってしまい、折角唆した幹部を死なせては元も子もなくなるからね」
「検問はヤザたちの動きを止めておく事と、外部からの接触を断つ事」
「でも私たちは、その検問を掻い潜り隠れ家に辿り着いて、アサムの命を救おうとしているわ」
「バレたら、総攻撃を喰らうな」
「いいえ、まだ総攻撃は出来ないわ」
「何故?」
「今動けるPOCのメンバーの殆どは、行方を晦ましたナトちゃんと私の行方を探すため、パリと日本で駆け回っているはずよ」
「まさか、そんな零細な」
「そんなものよ武器商人なんて、結局自分たちは戦わないから人数は要らないわ。パリの時もそうだったでしょう」
確かにそうだ。
人数は大勢いたが、その殆どは偽ミヤンに唆されていただけの一般人。
POCと言う組織も知らなければ、銃を持つと言う怖さも知らない只のアルバイト。
フランスだから、騙せた。
ザリバンの本拠地があり、緊張の高いここアフガニスタンに於いて、アルバイト感覚の軽い気持ちで簡単に銃を持とうとする奴など居やしない。
だが、俺たちの居場所が既にアフガニスタンに移っている事がバレるのは時間の問題だ。
POCは戦力となる人間を、一気にここに送り込んでくる。
そうなれば俺たち2人では何も出来なくなるし、ヤザを味方につけたとしても、POCの方は他の幹部を担ぎ上げるだろう。
訪れるのは“内乱”つまりザリバンの同士討ちだ。
「ナトちゃん、点滴を替えるから手伝ってくれる?」
「いいよ」
アサムの居る広場に向かうサオリの後を付いて行く。
「やるか?」
「そうね、でも今は無理よ。定期的に点滴を交換しなければならないし、痛み止めの効果も後1時間くらいで切れるから、やるとしたら明日以降になるわ」
「敵の人数が集まってしまうと何も出来なくなる」
「一刻でも早い方がいいけれど、患者の方だって今は放って置けない状態だと言う事、ナトちゃんなら分かるわよね」
「当然分かっている」
「だったら……まさか最初から、そのつもりで?!」
「当たり前だろ」
「相変わらず無茶ね。じゃあP子の集めた情報を教えてあげる。くれぐれも無理はしないでね」
「OK!」
ヤザに理由を話すと、心配して止められる。
アサムの容体が良くなって、仲間たちが協力できるようになるまで待てと言われるかもしれないし、自分も行くと言い出すかもしれない。
用心深くて、体力も力もあり、銃の腕も確かなヤザが手伝ってくれれば心強い。
だけどヤザには、ここを守る使命もある。
自分たちを裏切って罠にはめられた事への、悔しさや責任も人一倍感じているだろう。
だがアサムがあの様な状態である以上、ヤザは隊長としてここに居て、部下の指揮を取らなければならない。
たとえ、何も起きない事が分かっていようとも、仲間が動けない以上留まるのが隊長だ。
軍曹とは訳が違う。
「じゃあ、俺は、これで一旦帰る」
ヤザに声を掛けると「待て!」と呼び止められた。
「なんだ」
「俺の拳銃を返せ」
一瞬、感付かれたのかと思ったが、どうやら思い過ごしらしい。
ポケットに仕舞っていたトカレフと、予備の銃弾をヤザに投げると、座ったまま上手に受け取った。
「忘れていた事がある」
「忘れていた事?」
「そう。子供の時に玩具として持たせていたのはトカレフじゃなくてベレッタやSIGといった敵から分捕ったものだったな」
「ああ」
「あの頃の俺は拳銃など持てる身分じゃなかった。ナトー、お前外人部隊で、拳銃は何を使っているんだ?」
「SIG P320」
「そうか、そんな良い物は、ここにはないな……。おお、そう言えばこれは懐かしいだろう」
ヤザは隠すように後ろに於いていたドラグノフ狙撃銃を取り出して、俺に投げた。
ずっしりと重い。
これを使って俺は狙撃の腕を磨き、敵兵から『Grim Reaper(グリムリーパー=死神)』と呼ばれ恐れられた。
そして、この銃で、ハンスのお兄さんを撃ってしまった。
「持って行け」
「?」
「夜道は危ないだろうから、持って行け」




