【Principle of terrorism④(テロの原則)】
「どうやってアメリカでテロを行うのですか?」
「ナトーとの会話を聞いていたのか」
「ええ」
「だが話せない」
「分かりました。貴方の口から話せないのであれば、私が話しましょう」
サオリの言葉に、ヤザの顔が変わった。
「アサムの命に万が一の事があった場合の決意を彼等から聞かれた貴方は、そこで今ナトーに話したのと同じことを言った。違いますか」
「……」
ヤザは何も答えない。
理由は誘導尋問だと思っているから。
答える事によって、相手が知らない情報を与えて推理され答えを導かれる。
「彼等は全力を挙げて協力すると誓った。具体的な出国の仕方は色々あります。例えば一旦中国へ入り新彊ウィグル人に成りすまし、そこから広州に渡り漁師に交じって港を出る。船は、悪名高い遠洋漁業船団」
今迄ヤザから目を離していたサオリが急に振り向くと、サオリの横顔を見ていたヤザが目を逸らした。
我が義父ながら、男の子だと可愛らしく思う。
大部分の男は嘘が下手。
平気で嘘を付けるのは、女みたいな奴らだけだ。
「広州から出た船団は、広い太平洋を渡りメキシコ沖まで行き、そこで予め買収しておいた船に移る。その船は港に着く前に、今度はメキシコ近海で偽装操業をしている漁船に貴方たちを受け渡し、漁港に着いた後はカルテルの組織が手引きでアメリカ本土に密入国をする。どう、合っているかしら?」
「知らん!……第一、重いミサイルや爆薬は、どうやって運ぶつもりだ!?」
ヤザがサオリを睨み、怒鳴る。
顔は真っ赤。
額には汗。
こう言う純心な所に死んだ義母のハイファは惚れたのだろう。
昔から不思議に思っていた事がある。
それは美人で聡明なハイファが、何故ヤザの様な貧しい大工と結婚したのか。
後で知った事だがハイファはバビロン大学を卒業している才女。
しかし実際いま目の前で己の企みをサオリに暴かれ様として困っている姿を見せられると、その気持ちもわかるような気がしてきた。
ヤザのこう言う仕草は純心で可愛い。
男同然に育てられた俺でさえ、母性が擽られるのだから、お嬢様育ちのハイファにとっては尚更だっただろう。
「ナトちゃんなら、どうする?」
他所事を考えている事が分かったのか、急に話を振られた。
武器の輸送の件。
「武器は運ばない」
「何故だ。俺たちは武器も持たずに戦うのか?!」
「POCは武器商人だ。現地……いや、現場で手渡せばそれでいい。テロを実行する直前でヤザたちに渡し、確りテロを実行し、そして確実に死ぬところを見守っておけば、その後にもし捜査の手が伸びたとしても如何様にも言い訳が出来る」
「もしも、仲間の誰かが生け捕りにされたとしたら、どうする?!」
ヤザの真面目な質問に思わず鼻からフッと息が漏れそうになった。
「それはない」
「何故だ!」
「生き残りそうになった時には、POCが殺すから。言っただろう、見張っていると」
ヤザの目が一瞬何もない空間をさまようのが見て取れた。
動揺。
そう。
それは俺が最後に言った一言がPOCと俺とで違っていたから。
おそらくPOCからは“英雄の最後の姿を、世界各地で戦っている同胞に伝えるように見守る”とでも言われていたのだろう。
しかし、そんな事をしていたら、見守っている人間も共犯者の一人になってしまうから、絶対にそんな甘っちょろい事はあり得ない。
「まんまと口車に乗せられるところだったな」
容赦ない俺の言葉にヤザは項垂れて、洞窟の土を両手で鷲掴みにした。
「仕方ないわよ。白人の武器商人は、昔から嘘つきで卑怯者と相場が決まっているのだから。戦闘ばっかりじゃなく、たまにはスパイドラマくらい観て、勉強しなくっちゃ」
場を明るくするためにサオリが冗談を言った。
だが、ここでヤザが意外な事を俺たちに教えてくれた。
「俺たちに話を持ち掛けてきたのは中国人の女だ」と。
これに対してサオリは特別に興味を示さないで、ただ「珍しいわね」と、だけ答えたが俺は違う。
何か物凄い違和感を覚えてしまった。
“中国人の女……”




