【Hideout③(隠れ家)】
「誰にやられた?米軍か?」
「いや。分らんが、パリッとした奴らが待ち伏せしていた」
「パリッとした奴ら?」
「服装のことじゃよ。我々は見ての通りボロ布を纏ったような恰好。米軍の服装は埃だらけ。じゃから、そのどちらでもないパリッとした格好の奴らじゃ」
「人種は?」
「地元の様な顔つきの奴らも居ったが、中には白人も居った」
「そいつらが、秘密の会談から帰る我々の車を襲った」
POCに間違いない。
話しながらアサムの衣服を脱がし、傷口を診た。
傷は腰の下。
大腿骨上部にある大転子に銃弾が貫通して破壊されている。
関節駆動部ではないが、これでは歩けない。
患部には包帯も巻かれていなくて、汚れた布をあてがわれてあるだけ。
布は湿っていて、そこから腐敗臭がする。
「開くぞ。少し痛いが我慢してくれ」
患部に張り付いた布を捲ると、はやり化膿していた。
「アルコールは?」
後ろに立っているヤザに声を掛けると「ない」と返事が返って来た。
衛生兵も居ないテロ組織。しかもイスラム教では飲酒は禁じられているから、アルコールの代用になるキツイ酒もない。
「水は」
「井戸水があるから取って来る」
ヤザが水を取りに行っている間に服を脱いで、下着を破った。
水が来ると、先ず綺麗な水で患部を洗い爛れた所を綺麗にして、少しか乾かしてから下着を包帯代わりに巻いた。
包帯は毎日替える必要があるし、雑菌が付着しないようにアルコールも要るが、ここにはそのどちらもない。
しかも熱もある。
放って置けば敗血症になる可能性もある。
サオリに連絡しようと思って携帯を取り出した。
幸いな事に近くに基地局があるらしく、通話できる状態だ。
通話ボタンを押そうとして、止めた。
「ヤザ、ここは携帯の通信圏内なのか?」
「まさか、いくら町が近いといっても、アフガニスタンには基地局は少ないよ。まして何もない山の中だから携帯は使えない。もし使えるなら、とっくに味方に連絡している」
そう言うヤザに携帯を見せた。
「通話が出来るようになったのか!?」
「驚いていると言う事は、ここに来た時に仲間との連絡を図った。と、いう事か?」
「ああ。確かに、その時は誰の携帯も通信出来なかった」
“今なら出来る”
と、言うことは、誰かが基地局を作ったと言う事。
何の目的?
利用者へのサービスでは無いことは確か。
つまり発信源を探す事が目的だ。
「ヤザ!」
「分っている。これは俺たちを襲った奴らの罠だな」
「ああ、だから携帯は使うな」
ヤザはフッと笑みを漏らし「俺たちの携帯は、とっくに電池切れだ」と言った。
「P子は!?」
「P子?」
「ターニャの飼っていた鷹」
「ああ、あの鷹は昨日来たが、またどこかに行った」
出て行ったと言う事は、おそらくサオリはP子に周囲の状況を探らせているのだろう。
「地図はあるか?」
「ああ。だが、どうするつもりだ?」
「麓に戻って、医療品を持ってくる」
「止めろ!敵に見つかるぞ」
「だがジッとしている訳にもいかんだろう。このままだとアサムの命が危ない」
止めようとするヤザを説得して、隠れ家から出た。
出発するときに、心配したヤザが自分の拳銃を俺に渡してくれた。
トカレフ TT-33。
大幹部になったと言うのに、相変わらず、おしゃれっ気がない。




