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【Checkpoint②(検問所)】

 俺のチェックを担当している2人も、叫び声を聞いて一瞬注意をサオリに向けていた。

 チョロい奴らだ。

 だが待てよ。

 俺にとってチョロい相手なら、サオリにとっても同じはず。

 なのに嫌がりながらも、奴らの“なすがまま”。

 つまりサオリは、俺とは異なる選択を実行しようとしている。

 それは、抵抗も反抗も何もしないと言う、日本人らしい選択肢。

 俺の取ろうとしている行動を実行した場合、奴らがPOCかどうかや、奴らの目的や何をどこまで知っているか、仲間は何人いて何処に拠点が有るか等、手に入る情報は沢山ある。

 しかし情報収集後に7人全員を殺して見つからなない場所に埋めたとしても、通信が途絶えたことや任務から戻って来ない事で、奴らの仲間にも何者かが動いているという一番奴らの欲しい情報を与えてしまう事になる。

 では、サオリの取ろうとしている行動の場合はどうだろう?

 とりあえず奴らが地元の警察ではないことや、野蛮な事をしないのはある程度予想はついている。

 持ち物は調べられるが、パスポートから免許書まで全て日本政府の許可を得た特別な物だから足がつくことは無い。

 もちろん奴らからは何の情報を得る事は出来ないが、こちらの情報も奴らには何も与えない。

 いや、奴らが何者であるかは分からないが、こんな場所で検問するくらいだからこの先に何かがあるという事だけは分かる。

 奴らのボスが、その事に気付いているのかどうかは分からないが……。

「本物のようだな」

 ボディーチェックの最後に胸を触られた。

 一瞬ムッとして、その男の顔を睨んだが、男の方は俺にウィンクをしてみせた。

 まあいい。

 手で軽く持ち上げられただけで、特にエッチな目的で服の中に手を入れられたりしたわけではないし下半身の方は遠慮してくれたのだから、敵にしてはかなり良心的な対応だ。

「こっちの、おとこ女の方は大丈夫だ」

「車の中にも特に武器など怪しいものは確認できません」

「ニカブの女の方も、問題ありません」

 各チェック員が声に出して成果の報告を隊長にする。

 “まるで軍隊だな”

 隊長が、この先にはザリバン兵が居るかも知れないから暗くなる前に麓に降りる様に注意してから、取り上げていたパスポートと免許証を俺たちに返した。

 明らかにチャンとした訓練を受けている兵士たちで、決して地元の警察官では無い。

 更にこの男たちは西洋に住んで居た経験があり、その習慣が身に着くくらい長い間滞在していた。

 つまり元々はアフガニスタンで育ったわけではない何者かが、何かの目的のために現地の警察官に成り済ましているというのが事実だろう。

 車に乗りエンジンを掛け、発車する。

 バックミラーには、見送るように俺たちを見ている偽の警察官たち。

 運転しながらサオリの手に指でyou do?(どうする?)と書く。

 サオリが俺の手にRun(走って)と返す。

 あれだけ入念に調べていたのだから、盗聴器やカメラ、GPS発信機などが車に仕掛けられていたとしても不思議じゃない。

 運転しながら、それらを探し出し取り除く事は出来るが、そうすることによって俺たちは確実に怪しい人物としてピックアップされてしまうし、それらを取り除かずにP子の降下ポイントを探すことも奴らに隠れ家を教えてしまう事になる。

「ねえ、何か歌って!」

 おそらく俺が歌っている間に、何かを探るつもりだろうが、よりによって俺の一番苦手な歌をリクエストしてくるとは……。

 もっとも、会話をしながらではサオリは調べものに集中できないから、自然な流れで歌なのだろう。

 ここは観念して、いや観念してもらって歌うしかない。

 最近の曲は良く知らなかったので、イタリア語の勉強をしていた時に教材に入っていた『Torna a Sorrento (帰れ、ソレントへ)』を歌った。

 曲の後半になると、サオリが俺の腕に抱きついて来た。

 “なるほど、隠しカメラがあると言う事か……”

 しばらく走って俺たちは見晴らしの好い所で車を止めて、景色を楽しんだ。

 車から離れて大きな岩の上に座る。

「隠しカメラがあったのか?」

「ないよ。なんで、そう思ったの?」

「俺の歌でサオリが、ウットリしていたから」

「あら、だって上手だったもの」

「上手?!」

「そうよ、とってもロマンチックだったわ」

「そ、それは良かった」

 正直、褒められて嬉しかった。

「で、盗聴器は?」

「盗聴器も、おそらくない」

「おそらく?」

「そう。電波で発信するタイプはね。録音するだけのタイプは、調査したことが相手にもバレてしまうからしていないわ」

 録音するタイプを調べるにはマイクを近づければハレーションを起こすので簡単に調べられるが、車内でしかもレンタカーなのにマイクを持っていると言う事がそもそも不自然となる。

「GPSは」

「あったわ」

「奴らPOCなのか?」

「分からない」

「これからどうする?」

 GPSが発見された以上、P子の後は追えない。

 しかも奴らがそれを仕掛けたと言う事は、既に車のナンバーからレンタカー屋も調べが付いていて、当然そこから俺たちが泊っているホテルもバレてしまっているはず。

 俺たちの運命は、つまり奴らが俺たちを怪しいと思ったかどうかという事にかかっている。

 怪しいと思われれば、ホテルは奴らの監視下に置かれ、俺たちの動きは奴らに筒抜けになる。

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