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【Natow was dressed as a man.②(男装したナトー)】

 翌朝、俺たちは空港近くでレンタカー屋に行った。

 もちろん俺は男装して、サオリはブルカを纏い、偽の航空券を見せてピックアップを借りた。

「さて、何処に向かう?まだ目的が無ければ、それまでラジオを聞きながらドライブを楽しむか?」

「まあ、素敵。スッカリ男役が身に付いたこと」

 サオリが俺の腕を取って楽しそうに笑う。

「そうね、まだ一番の腕利き諜報員からの連絡は無いから、それまで北の方にドライブしましょう」

「北の方。いいね、雄大な山々に囲まれた景色を背景にした美しいサオリが楽しめる」

 少しだけ気取って低い声で返事を返すと、サオリが背中を叩いて「もう、好きになっちぃそう!」と激しく照れたので、俺は調子に乗ってしばらく男役に徹していた。

 1時間ほど走ると、つい1ヶ月前に居たバグラム空軍基地が左手に見えて来た。

 もう一緒に戦った仲間は、怪我も癒え、それぞれの国に帰った事だろう。

 ほんの数日滞在しただけだけど、ポーカー大統領との晩餐会をハンスに引き伸ばしてもらいユリアと基地の病院に行き負傷した仲間に会えたことや、トーニと基地の端にある公園に行ったこと、大統領に招かれたことなどを思い出しながら基地の横を通り過ぎる。

 バグラム空軍基地を過ぎてしばらく進むと、前方からアメリカ軍のバンヴィーに乗った部隊がこっちに向かって来るのが見えた。

 パトロールが終わって、基地に戻っているのだろう。

 合計4台のハンヴィーとすれ違ったが、その2台目の天井に取り付けられた機関銃座に立っていた男の肩に付けられた階級章が真新しい事に気が付いた。

“やあ、ゴードン伍長、久し振り!”

 ゴードンの階級章に一本線が増えたのが見えて、彼が上等兵から伍長へ昇格したことを知り軽く敬礼した。

 ゴードンは敬礼されたことに気が付いたが、俺だとは分からずに不思議そうな顔をしてすれ違った後も振り返って見ていた。

「駄目よ、あんまり調子に乗って正体がバレてしまっては、元も子もないんだからね……ところで、今の兵士は知り合いなの?」

「ああ、墜落した輸送機で一緒に戦った仲間、山岳歩兵で狙撃が上手い」

「大切な戦友ね」

「そう。大切な仲間だ」

 彼らを、もう2度とあの戦場に向かわせるわけにはいかない。

 改めて、そう言う思いが沸々と湧き出て来た。


 途中ゴルバハールのスーパーでシャワルマを買った。

 シャワルマと言うのはケバブに似た料理で、トマト、レタス、玉ねぎ、ピクルス、キュウリ、オリーブ、ビーツなどの野菜をピタパンに包み、中にチリやガーリックなどのソースを入れて焼いたもの。

 スーパーで買ったのはピタパンの代わりに、伸ばしたナンを使って包んであった。

 約2時間北に走った山岳地帯の待避所で、シャワルマを食べながら景色を見ていた。

「これ、美味しいね」

「ああ」

 サオリの言葉に、そっけなく答えてしまった。

 ケバブと違って、ナンで包んであるのでヘルシーなのにボリュームがあり、たしかに旨い。

 けれども俺の見ている山々の稜線の遥か向こうには、1ヶ月ほど前にザリバンとの死闘が有ったのだと思うと、自然に心が切なくなってくる。

 死んだ者たちは、もうこの美味しい料理を食べて舌鼓を打つ事も無いのだ。

 悲しくて空を見上げた。

 何処までも青く高い空。

 その高い空を、1羽の鳥が悠々と飛んでいた。

「P子!??」

「よく分かったわね」

「でも何で? 飛行機に乗るとき、連れて行かなかったし、降りる時もいなかったよ……」

「乗るときは、ガモーがバイク便で荷物として載せたの」

「じゃあ、降りる時はサオリの仲間が、その荷物を開けてP子を離したの?」

「ブッブー。違うわ、空港に着く前に飛行機から離した」

 確かにサオリがコクピットに戻って来たのは、着陸の少し前。

 だけど10,000mの上空を時速900㎞で飛ぶ飛行機から放り出されたら、いくらP子でも体は持たない。

「ひょっとして特殊なケースに入れたP子を、パラシュート降下させたの?」

「ピンポーン♪ そうよ。高度3,500mでパラシュートが開いて、その開いた衝撃から30秒後に箱が開く仕組み。これなら気圧も、速度による風圧も防げるでしょ」

 P子たち猛禽類は人間のおよそ8倍の視力を持っているばかりか、目の焦点を2カ所の異なる目標物に合わせられる。

 それに加え、物体が反射する紫外線も見る事が出来るので、どんなに外から見て分からないようにカモフラージュしていても、P子たちにはハッキリと実体が見えてしまう。

 だから、周囲を警戒しながらでも300mも離れた森の中に潜む子ネズミも簡単に捕えてしまう。

 いまP子はアサムを探している。

 おそらくどこかの洞窟に隠れているに違いなく、我々人間では探し出すのは不可能に近い。

 しかしP子なら、アサムが少しでも洞窟から空を飛ぶ鳥を見上げたなら、即座に見つけ出してしまう。

 そして、その事を知るアサムは、P子に見つかるように屹度その様にするだろう。

 眺めていると、3つほど離れた尾根の向こう側の中腹付近に、P子がスーッと急降下をし始めた。

 何かを見つけたのだ。

「さあ、行くわよ!」

 俺たちは慌ててピックアップに飛び乗り、P子の降下地点に急いだ。

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