【From Japan to Afghanistan②(日本からアフガニスタンへ)】
各種手続きを済ませコクピットに乗り込む。
サオリに指示され、計器類のチェックを行う。
「準備OKね、じゃあ滑走路に向かうわよ」
サオリはそう言うと管制塔に連絡を入れた。
「Tokyo ground,Nippon Cargo Airlines 508 , spot 18. Request push back. InfomationIndia」
(東京グラウンド、日本貨物航空 508、スポット 18。リクエスト プッシュバック。 情報 インド )
“Nippon Cargo Airlines 508 , Push back is approved. Runway 34R”
(日本貨物航空 508 、プッシュバック承認。 滑走路34R )
「ナトちゃん、エンジン始動!」
「OK!」
サオリから渡されたマニュアルに沿って、エンジン始動プログラムを実行し無事エンジンが始動した。
「Tokyo ground, Nippon Cargo Airlines 508 , Request to taxi」
(東京グラウンド 日本貨物航空 508 タクシー依頼)
“Nippon Cargo Airlines 508, Taxi to Runway 34R”
(日本貨物航空 508、滑走路 34R までタクシー)
「Taxi to Runway 34R. Nippon Cargo Airlines 508」
(タクシーで滑走路34Rへ。 日本貨物航空 508)
タキシングの許可が出たので、自走して滑走路に向かう。
“Nippon Cargo Airlines 508 , Contact Tower 118.1”
(日本貨物航空 508、コンタクトタワー118.1 )
「Contact Tower 118.1, Nippon Cargo Airlines 508」
(コンタクト タワー118.1 日本貨物航空508)
「Tokyo tower, Nippon Cargo Airlines 508 , on your frequency」
(東京タワー、日本貨物航空508、あなたの周波数で )
“Nippon Cargo Airlines 508 , Hold short of runway 34R. Boeing 777 on final”
(日本貨物航空 508 、滑走路 34R の手前で保留。 ボーイング 777 のファイナル )
「Hold short of runway 34R. Nippon Cargo Airlines 508」
(滑走路34R手前でホールド。 日本貨物航空 508 )
管制塔と会話はしていないが、俺も通信を聞いているので指示された通り、滑走路に侵入する手前で機を止めた。
“Nippon Cargo Airlines 508 , Line up and wait, Runway 34R”
(日本貨物航空 508 、整列待機、滑走路 34R)
「Line up and wait, Runway 34R, .Nippon Cargo Airlines 508」
(並んで待つ 滑走路34R .日本貨物航空508)
しばらく待つと、また通信が入った。
“Nippon Cargo Airlines 508 , Wind 170 at 5, Cleared for take off ,runway 34R”
(日本貨物航空 508 風 170 時 5 分 離陸許可 滑走路 34R)
「Cleared for take off runway 34R, Nippon Cargo Airlines 508」
(日本貨物航空 508 滑走路 34R 離陸許可確認)
滑走路の進入と同時に離陸許可が出たので、滑走路に入りサオリの指示通りにスロットルやレバーを操作して、滑走路を走る。
「機首を引き上げる感覚は、風向きやその日の重量によって違うから、体で覚えるのよ!」
「体で覚えると言ったって、今までの経験がないよ!」
「誰だってそうよ、最初の1回目を楽しめるかどうかは、今後の人生に大きく影響するわ」
「それなに??」
「ハンスとは、もうしたの?」
「なにそれ!操縦と関係あるとでも?」
「あるよ。操縦桿はイク手前くらいで止めなさい」
「イク手前って意味わかんない!……こうか??」
「あーダメダメ!それじゃあイキ過ぎて失神しちゃうわ」
サオリが俺の引き上げた操縦桿を少し抑えると、直ぐに車輪が浮き上がり機は地上を離れると管制塔から通信が入った。
“Japan Cargo Airlines 508, take a long journey”
(日本貨物航空508、長旅気を付けていってらっしゃい)
「Ok, got it!」
(了解)
“Bye bye”
「さようなら」
返事をしたサオリが直ぐに俺を突いたので、俺も管制塔に挨拶を返した。
「Chao!」
“Have a nice flight”
(良いフライトを)
安定飛行高度に入って自動操縦に切り替えたが、空港での点検から自動操縦に入るまで管制塔との通信以外、全ての工程を俺がやっていたので半端ない疲労感に思わず背伸びをした。
「御苦労様」
コクピットの裏にあるキッチンで珈琲を入れてくれていたサオリがカップを俺に手渡した。
「しかし、どうして免許も持っていない俺に操縦をさせた?」
「あら、免許は持っているじゃない」
「だって、これは偽物だろう」
「本物よ。だから早く操縦を覚えてもらわなければいけないの」
「……」
呆れて言葉が出なかった。
「普通の自家用パイロットの免許でも問題あるのに、これは定期運送用操縦士だろ。この資格を取るには先ず事業用操縦士の資格を取得したうえで各種規定時間を合わせた1500時間以上のフライト時間が必要なんだぜ。それを二つもプロセスを飛ばすなんて無茶だな」
「無茶じゃないよ、できる人は割と直ぐに出来たりするものよ。今日だってチャンと一人でマニュアル見ながら出来たじゃない」
「それはサオリが横に居たからだろ。それにこの免許取得に関しては21歳以上と決められているのに、俺は未だ20歳だ」
「飛び級よ」
「そんなものない」
「まあ、いいじゃない。はい」
抗議する俺の空いた方の手に、サオリはサラダを握らせた。
「細かい事を気にしていたら、上手くやっていけないよ」
「上手くやっていくって?」
「ナトちゃん」
急に真面目な態度になったサオリを見て、俺も珈琲とサラダを置いてかしこまる。
「私のお手伝いをしてくれる?」
「いいよ。そのために来たのだから」
「じゃあ、細かい事や矛盾は気にしないで」
「うん……でもこれは、無免許運転だろ!」
「だから国の承認はチャンと受けているって言ったでしょ!」
「それは不正行為だ!」
「細かい事、気にしないって今約束したじゃない」
「いや、これは細かい事ではないし、矛盾でもない。明らかな不正だ!」
「もう、この頑固者!」
サオリが怒ってコクピットから出て行った。




