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【Enemy name is POC②(敵の名はPOC)】

「私がPOCに入るわけないでしょう。勿論スカウトはされたけれど」

 俺の考えを悟ったサオリが、先回りして答えてくれた。

「でも、何故?」

「そりゃあお給料も一桁上がるし、たしかに悲しみや恨みは残るけれど、それが新たな次の戦争への火種にならないことは第二次世界大戦で敗北した日本が証明してみせたし、それにミランからも結婚して一緒にPOCで働こうと言ってもらったけれど……」

「けれど?」

「断ったわ。私は貴方と違う道を進みますって」

「そうか……」

「私がミランを引き留めようとしていたことで、POCは私に狙いをつけて来たの」

「抹殺か?」

「いいえ、そんなに敵は短絡的ではないわ。もっと、しつこく攻めてくるの」

「しつこく攻める?」

「断る理由を、つまり私の素性を徹底的にね」

「調べられたって、当時はただの赤十字の医師だったんだろ?」

「……実は、そうでもないのよ」

「そうでもない?」

「それについては、後で言うわ。とにかく奴らは、私のある事に気付きそうになった」

「それで、あの日一芝居打ったという事なのか……」

「さすが、感が鋭いわね。そうよ、あの日街に買い物に出かけて自爆テロに見せかけて、この世から姿を消したの。もっとも車に爆弾を仕掛けたのは奴らの方だけど、私はそれを利用させてもらったに過ぎないわ」

「敵が仕掛けたの?」

「そう。ミランの私への心残りを断ち切ろうと考えたPOCのスカウトが、本部の調査を待たずに先走って」

「どうして、そこまで分かるの?!」

 サオリの情報収集力に驚いて聞いた時、台所で食器を洗ってくれていたガモーが顔を出し得意そうに答えた。

「それは、俺がおるからや」と。

「じゃあ、ここの通信網で?」

「ここだけやないで。俺が構築した通信網は世界のどの地域に居ても使えるようになっている」

「じゃあ、サオリと2人で」

「な、アホな。ここの通信機器だけでも数億円も掛かっているんやで、それに衛星使用料も掛かって来るし、年に宝くじ2、3回当たっても運営費にもならんわ」

「じゃあ、何らかの組織……」

「そうよ。元々私は、国際赤十字とは違う組織の人間なのよ」

「元々って?」

「ナトちゃんと出会う前から」

「それが今、サリバンとアメリカの公証人として働いている組織のこと?」

「そうよ」

「ほかのメンバーも平和のために?」

「いいえ他のメンバーも私も、他のお仕事をしながら世界各地の情報を集める事が本当のお仕事よ。特に危険なことは無いの」

「さっき、俺に出会う前からって言ったけれど、俺を助けたのは組織の命令?それとも偶然?」

「半分半分って所かしら」

「半分?」

「そう。グリムリーパーの捕獲に関して先に動いたのはPOCよ。そしてアメリカ軍のある司令官は、それに気が付き天才スナイパーを悪用されることを恐れて、躍起になってグリムリーパー暗殺作戦に乗り出した」

「俺の暗殺作戦の事は知っていたが、ヤザも俺もPOCのスカウトには会わなかったし、POCは何故俺なんかが必要だったの?」

「POCだって元オリンピック代表スナイパーにも勝る天才が、まさか子供なんて思っても居なかったでしょうね。それに貴女の義父ヤザは、貴女の才能を悪用されることを恐れて、決してグリムリーパーの正体を誰にも明かさなかった。POCがグリムリーパーを欲しがったのは、各国の要人への脅しの為よ。中東で世界中に名を馳せたグリムリーパーを飼っている言うのは最高の脅し文句になるでしょう? 一旦狙われたら、死ぬまで表には出られなくなるんですもの」

 サオリはそう言って悪戯っぽく笑った。

「何故サオリだけ、俺の正体がグリムリーパーだと言う事を知っていたの? それもサオリたちの組織の情報網ってわけ?」

「私が貴女に気が付いたのは依頼者から頼まれた仕事をしていたからなの。言ってみれば偶然に見つけた副産物だと思っていたけれど、居今思えば出会えたのは必然なのかも知れないわね」

「その、頼まれた仕事と言うのは、もしかして」

「そう。貴女のご両親の亡くなった事故と、行方の分からなくなった赤ん坊の捜索」

「依頼主は、誰!?」

「それは秘密よ、いくらナトちゃんでも教える事は出来ないの」

「……じゃあ、どうして俺を助け出した後、依頼主に身柄を渡さなかった? ふつう探し物が見つかれば、取りに来るか、取り寄せるはずだ」

「そうならなかったのは、私が依頼主からの指示に従ったからよ」

「じゃあ、依頼主は俺の引き取りを拒否したのか!?」

 おそらく依頼主と言うのは、俺の両親どちらかの近親者に違いない。

 そして俺の受け取りを拒否したという事は、捨てられたという事なのだろう。

 会った事も無ければ、どこの誰かも分からない。

 分かっているのは、おそらく血のつながりのある人だという事。

 その人から見捨てられたのは、俺が“GrimRerper”と呼ばれた戦場の死神として100人以上の兵士を殺していた事だろう。


 俺だって好きで人を殺していた訳ではない。

 義父のヤザや仲間を守るためもそうだけど、自分が生きていたかったから。

 生きていれば、いつの日か自分の親の事もわかる。

 しかし、その親の事を教えてくれるはずの親近者に見捨てられたとは、正直ショックだった。

 失意が表情に出てしまったのだろう。

 ガモーが肩を優しく叩いてくれた。

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