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【Enemy name is POC①(敵の名はPOC)】

「ねえ、二人はどういう関係なの?」

 和気あいあいとした雰囲気になったので、二人について聞いてみた。

「どういう関係って言えば、そうねぇ~主従関係かしら。ねえ?」

 サオリが笑いながらガモーを見る。

「なんや、それ、ちゃうやろ。パートナー。仕事上の。主従関係なんてあらへんわ」

 ガモーが食べているケーキから目を外さずに答えた。

「仕事のパートナーって事は、ガモーもエージェントなの?」

「なんでやねん。俺のどこがエージェントに見えるねん。俺は、技術者。そんでここの管理者や」

「ここの管理者って?」

 俺の問いにガモーが顔を上げサオリを見る。

 サオリがコクリと頷くと「ここは通信基地や」と教えてくれた。

 なるほど、それで無線アンテナにパラボラアンテナ、ドームの中にも屹度見られてはいけないようなアンテナが隠されているのだろう。

「ねえ、さっき言っていた“美人を扱き下ろす癖”って何?」

 サオリに聞くと、聞かれていないのにガモーが「もうエエヤろう」と言ったがサオリは容赦しなかった。

「この人、背はスラっとして高いけれど、顔が不細工でしょ。だから後ろから見ると一見格好良く見えちゃうわけ。それが前に回って振り向けば……分かるでしょ“見返りブサイク”。それで自分は女性に縁がないと思い込んでいるから、容姿の良さだけでチヤホヤされる美人に対して虐めてしまえ症候群的な態度を取ってしまう訳。悲しいでしょ、こんなに近くに美人が居るというのにね」

「アホ。どこに美人が、おんねん?」

 サオリに言われても、いまいちピントこなかった。

 体形で人を判断することは職業柄ないとは言えないが、顔で差別することは先ず無い。

 まして日本人の男性ときたら、どれも似たような顔ばかりで、ガモーの顔が不細工だなんて言われてもピンとこない。

 ただこれも職業柄だけど、表情やシワの付き具合では人を判断することはある。

 ガモーの気配を殺した身のこなしと目つきの悪い所だけは気になっていたから、忍者の末裔なのかと聞いてみた。

「なんで?」

 ガモー本人よりもサオリの方がその問いに食いついて来たので、俺がここに来た時に気配を消したままドアを開けた事や人の心までも射貫くような鋭い目つきについて話すとサオリは急に声を上げて笑い出し、どうしたのか聞いても笑ったまま応えてくれない。

 なにが可笑しいのか訳が分からないでいると、ガモー本人の口から答えが出た。

「あんな、それは屹度、俺の育ちのせいやねん」

「育ち?」

「ああ。父親が大きな神社の神主でな、母親の実家がこれも大きなお寺の坊さんやねん。そやから、歩き方かて子供の時からキツクしつけられたし、人の心を読もうとする癖も自然についたんや。目つきが悪いのは、ただ単に俺の顔が不細工だからやろうな。ただそれだけの事で、忍者の末裔と言うようなたいそうなモンやないで、もっとも剣道だけは幼い時からやっていたけど」

 つまり、神事や仏に携わる者のみが持つ身のこなし、と言う訳か。

 ケーキを食べ終わり、日本に来たわけを話す。

 自分たちの部隊やエマたちに起こっている事を話し、それからサオリが今やろうとしている事を聞いた。

「――そう、やはりPOCは政府に圧力を掛けて来たのね」

「POCって、あの黒覆面の男が居た組織?」

「そう。正式名称はFor the Peace of children's(子供たちの平和のために)名前は御立派だけど、巨大金融機関を後ろ盾にした武器商人よ」

「ねえ、ひょっとしてその組織にミランは入っていないよね……」

 サオリが答えるまで少しだけ時間が空いた。

 その間に俺は“入っていないよ、彼は今中東のキャンプで働いているわ”と言うサオリの明るい返事を何度も頭の中で繰り返していた。

 お茶を一口、口に含んだサオリが重そうに口を開ける。

「見たのね」と。

 俺はミランに似た男が、黒覆面のアジトでヘリから落ちそうになった狙撃手を助けた事と、ビルから落ちそうになっていた俺を引き揚げてくれた黒覆面の男を遠い背後から狙撃して殺した事を伝えた。

「屹度、ミラン本人に間違いないわ」

「どうして?嘘でしょ!」

 サオリを責めた所で、何の意味もない。

 それでも、あの優しかったミランが何故そうなってしまったのか、抗議するように言ってしまった。


「あれは4年前、私たち赤十字難民キャンプのスタッフは、いつまでたっても治まらない内乱で増え続ける難民に誰もが頭を悩ませていた。問題は難民の受け入れ態勢ばかりではなく、キャンプ内での喧嘩やレイプ、強盗などの犯罪も人数と比例して増え続けていたの」

 あの頃、薬品の置いてある所に深夜に近付かないようにサオリに言われた。

 そして万が一泥棒を見つけたとしても、決して声を掛けたり取り押さえようとしないことも。

 16歳の俺には、よく分からなかったが、キャンプ内の治安は極限に達していたのだろう。

「そんな時、医療品の業者として、ある男がやって来たの」

「ある男?」

「POCのスカウトマンよ」

「じゃあ、ミランはその男に?」

「そう。追い詰められてマイナス思考になってしまった人間にとって、彼等の言い分は的を射ていた。ナトちゃんもPOCにスカウトされたんだから分かるよね」

「戦いを終わらせるためには、戦おうとする人間同士をもっと激しく戦わせて、お互いを絶滅に追い込む……と、言うヤツか」

「そう。その原理で生き残るのは、戦いを望まなかった善良な人たちだけ」

「ただし、戦争で家や家族を失った悲しみや恨みは残る」

「しかし、即効性は十分あるわ」

「まさか、サオリまで!?」

 そう。

 POCのシステムは積極的かつ間接的に戦いに介入することで、強烈な即効性を伴う事が最大の特徴。

 偽ミヤンこと黒覆面の男も、その事を言っていたが、強力な副作用を伴う薬は特効薬とは言えない。

 まさか、サオリ迄……。

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