表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/72

【I want to see Saori②(サオリに会いたくて)】

 氷川神社を後にして、直ぐ近くの厳島神社に寄った。

 ここは世界遺産に登録された厳島神社とは違い、無人の朱色で小さな祠には近づくことも出来ないように、前に設けられた柵には鍵が掛けられていた。

 この柵は年に1度しか開けられないらしく、サオリと会えなかった今の俺にはお似合いなのかも知れない。

 先に進むとまた小さな池が現れ、その次に長細い池がまた出迎えてくれた。

 大都会なのに少し郊外に出ると、こんなにも緑豊かな自然が残っているなんて何となくパリに似ている。

 森に囲まれた緑色の池を眺め、そこにあった東屋風のベンチに腰掛けてリュックから機内で貰ったミネラルウォーターを口にした。

 空を見上げると、秋の空は青く澄み高かくて、まるでアフガニスタンで見た空に似ていた。

 見上げていた空の一点に目が留まる。

 大きな鳥が悠々と広く高い空に、大きな円を描く様に回っていた。

“P子……まさか”

 東屋から身を乗り出すように立ち、手を前に伸ばしてみた。

 P子なら、この腕に気が付いて降りてくるはず。

 けれども大きな鳥は、悠々と空に描く円を大きくするだけで、しばらくすると森の陰に見えなくなってしまった。

 やはり、そんな都合のいい事は起きない。

 たしかに俺はサオリを探しに日本まで来たけれど、それをサオリは知らないし、そもそも3週間前に彼女とP子はパリに居た。

“困った時には日本に来なさい”

 いつか夢で見た通りに日本に来たけれど、それを知っているのはハンスだけ。

“バカだな……”

 そう呟いて、手摺につかまって水面に映る空を見ていた。

 その時、急に背後から迫って来る風を感じた。

 振り返り手をつき出すと、そこには急降下から水平飛行に移った一羽の鷹が、羽を縦に広げて減速してくる。

「P子!!」

 P子は俺の呼びかけに答えて、突き出した腕に止まると、もう一度ジャンプして肩の位置に移動して来た。「元気だったぁ?久し振りなのに覚えいてくれて有り難う」

 俺の頬に顔を摺り寄せて来るP子を手で撫でると、まるで甘える猫のように喉を鳴らした。

 P子が居ることでサオリが日本に居ること、それも近くに居ることが分かった。

「ねえ、サオリはどこに居るの?」

 俺の言葉にP子が反応するように、顔をあげ鋭い目で遠くを見た。

 いや、俺の言葉に反応したんじゃない。

 サオリが呼んだのだ。

 近くにサオリが居る。

 俺もP子の向いた方向を向く。

 そこには白鳥型のボートが幾つか浮かんでいるだけ。

 屹度、その中の一つに……居た!

 サオリは俺が見つけた事を知ると、拳銃を撃つマネをしてみせてから、手を振って笑った。

 気が抜けていた。

 もしもサオリが俺の命を狙う敵だったとしたら、俺は完璧に死んでいた。

 サオリのボートが岸に横付けする。

「さあ、乗って」

 俺は言われるままボートに乗り込み、P子は再び青い空に舞い上がる。

「油断した」

「いいのよ。ここは日本なんだから。それに私はズットナトちゃんのこと知っていたのよ」

 そう言うとサオリはスマホの画面を見せてくれた。

「これは?」

 映し出された画像は、地図上の一点に赤い表示が標されていて、その一点こそ今居る石神井公園の池の真ん中。

 自分の現在位置が分からないサオリではない。

 という事は、この一点が示すものは俺、ということか……。

 でも何故、俺の位置が分かると言うのだろう?

「さすがね、ナトちゃん」

「でも、どうして? 怪我をした子供の俺を助けて手術した時に発信機を?」

「まさか。発信機が付いていたら健康診断や空港で直ぐバレちゃうでしょ」

「じゃあ、まさか……」

 俺は、腕に巻いていた時計を見た。

 この時計は、サオリが爆破テロに巻き込まれたと見せかけて俺の前から姿を消す前、美容院に行くことになった俺に待ち合わせ時間が分かるようにと貸してくれた腕時計。

「でも、なぜ?」

 そう。

 この腕時計が発信機だったとしても、俺がこの時計を壊したり捨ててしまったりしていたら用をなさない。

 この時計が役目を果たせるのは、俺の腕に巻かれている時だけ。

「この時計を大切に使ってくれていて、ありがとう」

「だからあの黒覆面の男を追っている時も?」

「そうよ。私も黒覆面の男たちを追っていたのだけど、結局ナトちゃんたちの方が先に見つけたから」

「でもニルスのドローンを撃ち落とされて、サオリが教えてくれなかったら逃がしてしまうところだったよ」

「私は、貴女を追っていただけ。P子に協力してもらいながらね。だから、奴らのアジトを教える事が出来た。それだけよ」

「じゃあ、日本へも俺を追って?」

「まあ!いい気にならないで。私が日本へ戻ったのは、もう1週間も前の事よ」

「ごめん」

「いいのいいの!」

 サオリは、俺の背中をペチペチと叩きながら笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ