危惧
ドルティアウは大変なロクデナシだったものの、彼について詳細に描写されるのは本編のまだ先の方なので、ここでもあまり丁寧には描かれない。
ジュゼ=ファートとファリ=ファールの境遇について触れた際に僅かに出てくるだけだ。
が、それももうしばらく後なので、まずは話を進めよう。
と思ったが、
「アリシアァッッ!!」
突然、明らかな怒声によって名を呼ばれたアリシアだったものの、実はそれよりも早く異変を察知していた。
だから、放たれた<魔術>に対して<抗魔術>を使うことができた。
「ラウル・ディルティクス!」
視界に捉えたその者の名を口にする。
そう。人混みにまぎれて彼女目掛けて魔術を放ったのは、ボーマの街で戦った<戦術師>ラウル・ディルティクスであった。
ラウルが、人混みにも関わらず、爆炎系の魔術を放ってきたのだ。
だから抗魔術で打ち消したのである。
辛うじて間に合った状態だったが。
「やはり、あなたも召還されたのですね……!」
アリシアの危惧していたとおりだった。ナニーニとコデットが、自分に紐付けされたデータとして召還されたのであれば、当然、ラウルが召還される可能性もあった。
「な、何!?」
「なんだあいつは!?」
ナニーニとコデットも反応する。しかし二人は昨夜のラウルを見ていないので、当然、戸惑うだけだ。
二人を庇いつつ、
「ラウル! こんなところで!!」
諫めるように声を上げるが、だがそれを聞き入れるような相手ではない。加えて、彼にしてみれば訳も分からずこのような場所に召喚されて、しかもそこにアリシアがいたとなれば、なるほど頭に血も上るというものだろう。
イベントが始まって早々、大変なことになってしまった。
だからアリシアは、決断する。
『死亡も含めて、彼を完全に無力化する!』
と。
たとえVRアトラクションのキャラクターとはいえ、仮にも<人間>として設定されているものの命を奪うことはしたくなかった。したくなかったが、このような人混みの中で爆炎系の魔術を放つなど、無差別テロ犯と同じである。
だから、無関係な人々に被害が及ぶ前に、速やかに対処しなければならない。
今の彼女は、その優先順位をはき違えることはしない。
一方、周囲の人々は、明らかな怒声を上げる異様な風体の男に、怪訝そうな、不快さを隠さない視線を向けるものの、最初の爆炎魔術が不発だったこと、彼が無詠唱で魔術を使っていたことで、自分達が実は大変な危険に巻き込まれようとしていることにまったく気付いていなかった。
ゆえに、迷惑そうに視線は向けるものの、誰も危険を察して避難を図ろうなどとはしなかったのだった。




