不正アクセス
「ダメです！ リンクが解除できません！」
リンクを遮断し作業の中止を命じた宿角に、スタッフの女性が焦った様子で応える。
「ユニットの電源を落とせ！！」
宿角の命令を実行しようとするものの、
「電源も反応しません！ コマンドが届きません！」
上ずった声で状況を告げる。
その状況については、アリシアの方でも確認できていた。
『！？ 切断できない！？』
センサーからの入力をシャットアウトすることで離脱しようとしたのに、なぜかアリシア2234-HHCのセンサーからの入力がシャットアウトできないのだ。
加えて、
『アラート。不正なアクセスを検出しました』
アリシア2234-HHCのボディが警告を発する。さらに、今、宿角らのいる部屋の＜ファイヤーウォール＞が、外部に向かって不正なコードが発信されようとしていたのをブロックしたという通知が。
もちろんそれは宿角らの方にも知らされている。
「どういうことだ…？ アリシア2234-HHCを踏み台にしてJAPAN-2のメインフレームに侵入を試みてる者がいる……？」
宿角はそう推測した。
しかしその推測に対しては、アリシアが、
「いえ、この不正なコードはあくまで感染を広げることが目的のようです。特定の標的を持っているものではないと思われます。もちろんそれ自体が＜踏み台＞を増やすことを目的としている可能性は否定できませんが」
と告げる。
けれど、その不正なコードは、一般には公開されていない特殊な形式のファイヤーウォールを展開しているVR課のそれを破ることはできなかったようだ。
同時に、アリシア2234-HHCを＜ある種の物理的なファイヤーウォール＞として利用していた＜千堂アリシア＞にも不正なコードは届かない。
それにしても、本来なら＜スタンドアロン機＞であってネットワークからの不正アクセスに対しては物理的に保護されているはずのアリシア2234-HHCにどうして不正アクセスができてしまったのだろうか？
これについても、アリシアには心当たりがあった。
『VRアトラクションにアクセスするためのデバイスがハッキングされたんだ。それで＜クラッキングデバイス＞にされたんだろうな……』
＜クラッキングデバイス＞
それは、＜キング＞と名乗る誘拐屋が千堂邸に侵入する際に警備用のレイバーギアへのクラッキングに用いた違法な装置のことである。
ハッキングされた＜VRアトラクション用のデバイス＞が、簡易のクラッキングデバイスとして利用されたのだと推測したのだった。
