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搦め手

ラウルは、人格も精神も破綻しているものの、同時に、


『ちっ! 火炎系の魔術であれば、この周囲ごと丸焼きにしてやるのに……!』


そんな風に考えられる冷淡さも兼ね備えていた。彼の火炎魔術は強力で、確かにこの付近一帯を火の海に変えることも造作もなかった。


とはいえ、そんなことをすればゴクソツの傘下にある店なども焼失してしまうことになるので、さすがにそれはマズい。


そういう判断はできるということだ。


もっとも、あくまで『ゴクソツの利になるかどうか?』というのが基準ではある。


そんなわけで、必ずしも得意ではないものの、<(から)め手>で攻めることにする。


「!?」


アリシアは自身の周囲の気温が急激に下がってきていることを察した。


と、地面に足を着いた途端に、靴が貼り付いて動かなくなる。


凍り付いたのだ。氷結魔術だった。火炎系の魔術は得意なラウルだったものの、氷結系の魔術はあまり得意ではなかった。


が、それはあくまで『火炎系に比べれば』という話でしかなく。『氷結系が得意』と自称する並の魔術師など足元にも及ばない強力なそれを使えるのだが。だからこそ、瞬時に靴が凍り付いて地面に貼り付くほどの芸当もやってのけるのだ。


アリシアも、すぐさま力尽くで引き剥がすものの、一瞬、動きが止まる。それがラウルの狙いだった。僅かにでも動きを止められればよかったのだ。


そのアリシアを、無数の<見えない針>が襲う。


「シュッ!!」


それでも、今度は抗魔術を用いて<見えない針>をかき消す。


が、ラウルはそれさえ読んでいた。アリシアの背後に、いつの間にか巨大な影が。


視線を向けなくても、<音>だけでその正体を察する。


「ゴーレム!?」


その通りだった。ラウルが、先ほどまでの攻撃で破壊された路面や壁などを材料とし、ゴーレムを生成して見せたのである。


頭丁高三メートル強。推定重量一トンのゴーレムが、文字通り巨大な岩塊のような拳を、アリシア目掛けて振り下ろす。


これがラウルの狙いだった。


抗魔術は、あくまで魔術を無効化する術に過ぎない。たとえゴーレムを<解体>できたとしても、拳だけでも優に百キロは超えるであろうそれが落ちてくることには変わりない。


これだけの連続攻撃ともなれば、魔術師であろうと騎士であろうと、改めて対処するのは無理があるはずだった。


普通ならこれで、死ぬ。


<普通>なら。


けれど、アリシアは<普通>ではない。


彼女は敢えて自身目掛けて振り下ろされるゴーレムの拳に手を伸ばし、受け止めた。


そう、彼女は、重量だけでも数百キロはあるであろうゴーレムの拳を、受け止めて見せたのである。



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