ゴーディン
「……」
<掃除>
自分がつい口にしたその単語に、一瞬、悲しそうな表情をしたものの、相手が本当の人間ではなくVRアトラクション内のキャラクターに過ぎないことを改めて認識し、<ゴーディン>と相対した。
身長約二メートル三十センチ。推定体重百八十キロのゴーディンを前にしても、アリシアは怯むことはない。
当然か。彼女は本来、要人警護仕様のメイトギアなので、戦闘モードを起動すれば、たとえ違法な高出力サイボーグが相手でも圧倒するのだ。その彼女にとってみれば、いくら規格外と言っても人間(の範疇を超えないように設計されたキャラクター)でしかないゴーディンなど、子犬のようなものでしかないのだから。
それでも、普通の人間のプレイヤーの場合だと、この巨躯に加え、少なく見積もっても数十キロはありそうな戦斧を抱えた威圧感に、さすがに最初は圧倒されるだろう。
ただし、このゴーディンはあくまで序盤の<小ボス>。見た目こそは立派だが、これに苦戦するようではこれから先はなかなか辛いのもまた事実。
となればアリシアにとっては障害にさえならない。
ゴーディンが戦斧を振りかざすと、周囲にいた者達は必死で距離を取る。巻き込まれれば間違いなく命はないからだ。
「おおらあっ!!」
気勢と共に戦斧が振り下ろされる。早い。普通の人間なら、防ぐことはおろか避けることさえ難しいかもしれない。
けれどアリシアは、地面に落ちていた、自身が踏み折った剣を足で蹴り上げて手にし、それで戦斧を受け止めてみせた。
初期装備の剣は、使えば劣化し、やがて折れてしまう仕様なので、なるべく無駄にしたくなかったのだ。ましてや戦斧など受け止めれば、劣化が一気に進む。初心者などでは、このゴーディン戦だけで折ってしまう者もいるくらいだ。
もっとも、それはさすがに滅多にいないレベルではある。正直なところ、この種のアトラクションには向いているとは言い難いかもしれない。
だからこの時のアリシアのように、敵から奪った剣を使う者も多い。とは言え、さすがに折れた剣を使うというのはまずいないだろうが。
「な!? てめえ!」
折れた剣で易々と受け止められたことに、ゴーディンは顔を真っ赤にした。馬鹿にされたと思ったのだろう。
さりとてアリシアには、彼を馬鹿にする意図などまったくなく、単純に手持ちの剣を節約するためにやったことではある。新しい剣を手に入れるためにイベントを起こす手間と時間を省くため以外の意図はない。
が、顔色一つ変えずに折れた剣で戦斧での打ち込みを何度も受け止められては、冷静ではいられないだろうが。




