彼我の戦力差
肩を掴まれ押された時の感覚で、なるほどそれなりに高い筋力は持っているのだろうとアリシアには察せられた。
けれど、体の各部の連動がまるでなっておらず、力が効果的に伝わっていない。まったく出鱈目に分散してしまって<圧す力>としてまとまっていないのだ。
だから倍以上の質量差があっても圧し切れない。
「くそっ! 舐めんなよ!」
これまたいかにもなセリフを発しながら掴みかかろうとする男に、それを躱しながら、
「私はまだ、敷地内に入ってもいないはずです。その私を排除なさろうとするのは、明らかな侵害行為に当たります。よって私は、自衛手段を講じます」
男に対してそう告げるものの、まるで聞く耳は持たないようだ。
「はあ……」
アリシアは悲しげに溜息を吐き、男が踏み出そうとした足を軽く蹴った。
すると体を支えを失った男が、綺麗に倒れる。
どうにか反射的に手をついて顔を地面にぶつけることは免れたものの、四つん這いになった男の顔面に何かが迫る。
『やべえ! 蹴られる!!』
男は手で顔を庇うことさえできずに咄嗟に目を瞑ってしまった。
なのに、男の頬には、硬い革製の何かが軽く触れただけだった。
靴だ。アリシアが履いていた革製のトレジャーシューズを思わせる靴が触れたのである。
「どうですか? これでも私が店に入るのは危険ですか?」
荒事の最中とは思えない穏やかな声で、問い掛ける。
すると男は、まったく敵わないことを悟ったのか、今度は、
「確かにあんたは強えよ。けど、余所者に店に入られると俺が怒られるんだ! な、勘弁してくれよ……!」
一転して泣き落としにかかる。大きな体を小さく縮めて、憐みを誘う振る舞いで。
そんな男に、アリシアは、その場に膝を着く。
と、瞬間、男はガバッと体を起こして大きく両手を広げ、彼女の体をがっちりと捉えた。
「あーははは! 手間掛けさせやがって! このままへし折ってやらあ!!」
男が高らかに嗤いながら勝ち誇り、渾身の力でアリシアを締め上げた。それは、屈強な男でも音を上げるほどのものだっただろう。
「……」
なのに、彼女の表情はまるで変化がなかった。男を憐れむように見ながら、
「彼我の戦力差というものをどうして冷静に受け止められないんですか……?」
平然と問い掛ける。
「な……!?」
男は驚愕するものの、現実というのは残酷だ。自分がありったけの力で締め上げようとしている華奢な体に、腕がまったく食い込んでいかない。それこそ岩でも抱き締めているかのように。
するとアリシアは口をすぼめて、
「フッ!」
と強く男の顔に呼気を吐きつけたのだった。




