出向
のっけからおかしな形で始まってしまったが、これはあくまで<千堂アリシア>にとっては、
<業務の一環>
だった。
というのも、JAPAN-2のエンターテイメント部門アミューズメント課第六VR班が開発、β版の配信が始まったVRアトラクションサービス<ORE-TUEEE!>内で問題が発生。緊急メンテナンスが行われたものの六時間を要しても解消されなかったためにやむを得ず問題がある部分だけを利用不可としてサービスを再開、運用を続けながら問題個所の復旧を行うというトリッキーな対処を行うことになったのである。
で、なぜアリシアがそれに関わっているかと言うと、
「すまん! 千堂! 後生だから力を貸してくれ!!」
JAPAN-2エンターテイメント部門の役員である宿角領閣に頭を下げられたことで、アリシアの主人である千堂京一は、気は進まないながら協力を請け負ったということだ。
<千堂アリシア>については、基本的には部外秘とされつつもある程度以上のポジションの人間であればJAPAN-2内ではすでに周知の事実であり、彼女の高い能力についても知れ渡っていたのだった。
そして宿角領閣は、千堂がロボティクス部門で技術者をしていた頃の、直属ではないが上司で、AI等については造詣の深い彼に世話になったこともあり、頭を下げられては無下にもできず、
「アリシア、そういう経緯なんだが、協力してもらえるだろうか?」
そんなこんなで、
『ロボティクス部門からエンターテイメント部門への出向』
という形で出向いてきたのである。
が、実を言うと、ロボティクス部門とエンターテイメント部門は<都市としてのJAPAN-2>内でも<区>が離れており、アリシアは主人である千堂京一を伴わない移動が許可されていなかった。
そのため、アリシア自身は自らが所属するロボティクス部門メイトギア課のオフィスにいながら、市販されているバージョンのアリシア2234-HHC(ホームヘルパーキューティ)とリンクして第六VR課のオフィスへとやってきたという。
この辺り、アリシアが持つ特殊性に現実の法整備が追い付いておらず、こちらもトリッキーな対処を行わざるを得ないという状態にあったのだ。
ただ、もう一つ、今回の形をとった理由が、
「正直、嫌な予感がするんだ」
という千堂京一が、『念の為』として行ったという経緯もある。
そして彼の<予感>は的中してしまったのだった。